香ばしい香りのコーヒーは、ふたりの心を和ませた。百合はシェフに話しかける。
「シェフ、私思ったんです。前ここに来てお店に入った時、おとぎ話の中にいるみたいって…。それで今日、航さんにお店の名前を聞いて意味を知って、びっくりしました…。」
シェフは笑顔で答えた。
「それは嬉しいなぁ。お客様に気持ちが伝わることは一番嬉しいことだよ。ありがとう、百合ちゃん。」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。」
シェフに話しかける百合を、航は嬉しく思い、航も笑顔になった。
店を出る時が来る。
「本当にありがとうございました。またお願いします、先輩。」
「気にするな、いつでも待ってるよ。」
「ごちそうさまでした。」
百合はぺこっと頭を下げた。その百合に、シェフは少し笑い、少しふざけながら聞く。
「百合ちゃん。航にひどいことされて泣かされてないかい?」
百合は真面目に答える。
「だ、大丈夫です。私が勝手に泣いて、航さん、いつも一緒にいてくれます。」
「そーゆーこと先輩に言うなよ…。」
恥ずかしがる航。そんな航の肩に、シェフは手をポンっと置く。
「頑張れよ、航。」
「はい、もう大丈夫です。」
航の肩に、シェフはポンポンっと優しく叩いた。
「あんたは先に出てろ。」
「は、はい…。シェフ、ありがとうございました!」
百合は店を出る。とても実りのある、嬉しくて楽しい、そしておとぎ話の中のような時間だった。小さく笑う百合。気がつくと、目の前に白くてとてもいい香り。
「え?」
「受け取って、くれるだろ?」
花束だった。航は花束を持っていた。白さを増した、立派に咲いた真っ白な百合の花束。
「航さん…プレゼント、何もないって…。」
航は百合の唇を唇で塞いだ。何も言わず、百合を見つめる。百合が花束を受け取ってくれるのを、航は待っていた。百合はそっと受け取る。
「いい香り…。」
「やっぱり、あんたにぴったりの花だな。行くぞ。」
航は笑顔で百合に手を広げる。その手を百合は笑顔でぎゅっと力強く握った。花に負けないほどの、笑顔が咲く。笑顔が咲いたふたりの帰り道。
アパートに着いてすぐ。
「航さんはリビングで待っててください。私はお花、花瓶に入れるので。」
花瓶を探し、水を差す。真っ白なリボンをほどき、ワイヤーを緩めた。すると花束の中から何かが出て、それが床にぽとっと落ちた。
「ん?」
百合はしゃがみ、それを見る。以前お弁当と一緒に入れていたメッセージカードだった。
『このお弁当で、少しでも疲れが取れますように』
百合はすぐにカードの裏を見る。
ずっと一緒だ
ワタル
また百合は動きが止まる。そして同じく呟いた。
「やっぱり…夢じゃない…。」
しゃがんだまま、百合はカードをきつく握る。息をするのがつらくなるほど嬉しかった。百合は動けない。しばらく動けなかった。
百合がなかなか来ないことに、航は心配になる。航がキッチンへ行くと、小さくうずくまった百合がいた。航はやさしい声。
「どうした…?」
百合には航に、沢山の言いたい伝えたい想い。心が張り裂けそうな百合は、航を見つめることしかできない。それでも声を振り絞る。
「わ…わたる…さ…ん…。」
息の上がる百合を見た航は、百合をやさしく抱きしめた。
「夢じゃない.…。よかった…生きてきて…。」
「そうだ。生まれて生きてきて、よかったんだ。これからも生きるんだ、一緒に。」
『一緒』その言葉が百合の心を動かした。百合は弱々しく航を抱きしめる。そして、今まで生きてきた24年分の、様々な思いの詰まった涙を流した。航がさらに愛しくなる百合。
「航さん…。」
「ん?」
「ずっと…。」
「一緒だ。」
「シェフ、私思ったんです。前ここに来てお店に入った時、おとぎ話の中にいるみたいって…。それで今日、航さんにお店の名前を聞いて意味を知って、びっくりしました…。」
シェフは笑顔で答えた。
「それは嬉しいなぁ。お客様に気持ちが伝わることは一番嬉しいことだよ。ありがとう、百合ちゃん。」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。」
シェフに話しかける百合を、航は嬉しく思い、航も笑顔になった。
店を出る時が来る。
「本当にありがとうございました。またお願いします、先輩。」
「気にするな、いつでも待ってるよ。」
「ごちそうさまでした。」
百合はぺこっと頭を下げた。その百合に、シェフは少し笑い、少しふざけながら聞く。
「百合ちゃん。航にひどいことされて泣かされてないかい?」
百合は真面目に答える。
「だ、大丈夫です。私が勝手に泣いて、航さん、いつも一緒にいてくれます。」
「そーゆーこと先輩に言うなよ…。」
恥ずかしがる航。そんな航の肩に、シェフは手をポンっと置く。
「頑張れよ、航。」
「はい、もう大丈夫です。」
航の肩に、シェフはポンポンっと優しく叩いた。
「あんたは先に出てろ。」
「は、はい…。シェフ、ありがとうございました!」
百合は店を出る。とても実りのある、嬉しくて楽しい、そしておとぎ話の中のような時間だった。小さく笑う百合。気がつくと、目の前に白くてとてもいい香り。
「え?」
「受け取って、くれるだろ?」
花束だった。航は花束を持っていた。白さを増した、立派に咲いた真っ白な百合の花束。
「航さん…プレゼント、何もないって…。」
航は百合の唇を唇で塞いだ。何も言わず、百合を見つめる。百合が花束を受け取ってくれるのを、航は待っていた。百合はそっと受け取る。
「いい香り…。」
「やっぱり、あんたにぴったりの花だな。行くぞ。」
航は笑顔で百合に手を広げる。その手を百合は笑顔でぎゅっと力強く握った。花に負けないほどの、笑顔が咲く。笑顔が咲いたふたりの帰り道。
アパートに着いてすぐ。
「航さんはリビングで待っててください。私はお花、花瓶に入れるので。」
花瓶を探し、水を差す。真っ白なリボンをほどき、ワイヤーを緩めた。すると花束の中から何かが出て、それが床にぽとっと落ちた。
「ん?」
百合はしゃがみ、それを見る。以前お弁当と一緒に入れていたメッセージカードだった。
『このお弁当で、少しでも疲れが取れますように』
百合はすぐにカードの裏を見る。
ずっと一緒だ
ワタル
また百合は動きが止まる。そして同じく呟いた。
「やっぱり…夢じゃない…。」
しゃがんだまま、百合はカードをきつく握る。息をするのがつらくなるほど嬉しかった。百合は動けない。しばらく動けなかった。
百合がなかなか来ないことに、航は心配になる。航がキッチンへ行くと、小さくうずくまった百合がいた。航はやさしい声。
「どうした…?」
百合には航に、沢山の言いたい伝えたい想い。心が張り裂けそうな百合は、航を見つめることしかできない。それでも声を振り絞る。
「わ…わたる…さ…ん…。」
息の上がる百合を見た航は、百合をやさしく抱きしめた。
「夢じゃない.…。よかった…生きてきて…。」
「そうだ。生まれて生きてきて、よかったんだ。これからも生きるんだ、一緒に。」
『一緒』その言葉が百合の心を動かした。百合は弱々しく航を抱きしめる。そして、今まで生きてきた24年分の、様々な思いの詰まった涙を流した。航がさらに愛しくなる百合。
「航さん…。」
「ん?」
「ずっと…。」
「一緒だ。」