「おい。ここ書いてないぞ。一番大事な日なんじゃないのか?」
「何の日ですか?」
「誕生日だよ。あんたいつだ。」
「5月です。」
「5月?何日だ?」
「23です。」

 航は呆れた顔をする。

「真面目に答えろ。いつだ。」
「だから5月23日ですってば。どうしてですか?」
「それほんとか?」
「はい。それがどうしたんですか?」
「オレもだ。」
「え?」
「オレも5月23日だ。」

 航はふたりの誕生日を記入する。一覧に書き込めるものは全て書き込んだ。その後、ふたりは見つめ合う。

「同じ誕生日…。」
「歳も場所も違うけど、オレら同じ日に生まれたんだな。来年の誕生日は盛大に祝おう。」
「はい…。」
「なんだ?ショックだったか?」
「違います。」
「じゃあどうした。」

 やさしい航。やさしい声。

「すごく嫌だったけど…、生まれてよかったって…。その日、この私で…。」

 航は手もやさしかった。百合の手が、そのやさしさで包まれる。

「そうだ。生まれてあんたは真っ当に生きてきた。すげーつらいのに。でもだからオレはあんたと出会えた。出会ってあんたはオレを選んでくれた。そのおかげで今がある。」
「でも航さんも、私と一緒にいることを選んでくれました。」
「じゃあ最初にオレを見つけたのは誰だ。あんただろ?」

 航は百合の頬に手を添える。やさしい手。

「ありがとな、百合。」

 頬に添えた航の手に、小さな涙が落ちた。百合の落とした涙。

「来年…毎年祝おう、誕生日。何するか考えて、最高の誕生日にしよう。」

 百合は航の胸におでこを当てた。

「楽しみだな。」

 百合は頷く、航の胸の中。そのまま百合はずっと航の胸に包まれる。航の素肌に包まれる。

「航さん。そういえば、会社の先輩が言ってました。『ユリは彼氏のもの、彼氏もユリのもの』、『ユリは彼氏を独り占め、彼氏もユリを独り占め』って。」
「あんた…どんな先輩と付き合ってんだよ…。」
「それ、合ってますか?」
「あぁ…間違ってはいないんじゃ…。」
「なんとなくわかるような、まだわからないような…。んー…。」
「仲、良いんだな。」
「はい。でも、1人は転職、1人は結婚を考え始めたそうです。」
「じゃあ仕事辞めんのか?」
「順調に行けば、もしかしたら…。」
「じゃあまた寂しくなるな。」
「そんなことないです。」
「何でだよ。仲良いんだろ?」
「全然寂しくないって言ったら嘘になりますけど…。私、2人のこと応援してるんです。2人には沢山、勇気をもらいました。その2人が幸せになってくれたら、私も嬉しいです。それに今は、このリングがあるので寂しくないです…。」

 嬉しそうにリングを見る百合。百合は確実に強くなっていた。航は嬉しさと寂しさ。

「強くなったな。」
「そうですか?私、強くなりましたか?」
「今のあんたなら、オレより強い。」
「そんなことないです。航さんは強いです。」
「強くなっても弱くなっても、あんたはあんただ。」

 航の目には艶。

「あんたを独り占めしたい。」

 その艶をどんどん浴びる百合。

「大丈夫です…私は航さんのもの…。だから独り占め…してください…。」

 百合の目も体も艶やかになる。

「キス、してください…。」

 航は百合を見つめ、熱いキスをする。熱いキスからの旅が始まる。終わらない旅が何周かした後。

「航さん。セックスって週末にするものなんですか?」
「は?!」

 百合は真剣だった。航は渋々答える。

「したい時にする。それだけだ。」
「したい時…。んー…。」
「そんな深く考えるなよ…。」
「じゃあ、これから航さん、ほんとに夜這いするかもしれませんか?」

 真剣な百合は続く。

「そんな泥棒みたいなことするかよ…。したくなったらしたいって、お互い言えばいい。」
「はい。そうします。」
「そうしますって…。」
「ヘイキって箱に書いた時。航さんのこと…そういうのを『求めてる』って言うんですか?だったら私は航さんのこと、求めてたのかもしれないです…。」

 自分で言っておいて恥ずかしくなる百合。布団で顔を少し隠す。

「今は?」
「え?」
「今だよ。今はオレを求めてるか?」

 さらに恥ずかしくなった百合はもっと顔を隠した。

「求めてるなら、合図しろ。」
「合図…合図…。」

 百合は布団の中に潜り込む。