「シャワー貸してくれ。」
「はい。準備しておきます。」

 百合は鏡を見る。ネックレスに触れる。航と同じ太陽が首元に眩しい。そして右手、薬指。航のW。百合は嬉しくて仕方なかった。

「あんたも浴びてこい。」
「はい…。」

 シャワーから戻ってきた航は下着姿だった。百合は航に背を向ける。

「航さん…服を、着てください…。」
「何だよ、何かおかしいか?」
「いいから、早く服を…。」
「いいじゃねーか。昨日散々見ただろ?あ、今日もか。」
「私は、見てません…。」
「あーあんた、すげー気持ちよさそうだったもんな。」
「航さん!」

 百合もシャワーを浴びる。肌を見る。肌は白い。そして航に抱かれた体、百合は大人になれた気がした。今までの自分ではない。心も体も変化した、そう思った。

「航さん、お腹空いてませんか?何か軽く作ります。」

 百合はピラフと麦茶を持ってきた。

「じゃ、いただきます。」
「はい、召し上がれ、です。」

 航はなかなか料理に手をつけない。

「お腹、空いてませんでしたか…?」
「いや…。」
「じゃあ、何か…。」
「あんたには、甘えてばっかだなって。」
「何…言ってるんですか…。」

 それを聞いた百合は声を大きくして言う。

「私は航さんのおかげで、笑えるようになったんです。人も怖くなくなって、世界が広がったんです。どれだけ強くなれて、成長できて、自分でも計れません。航さんがいてくれて、どれだけ心強いか、航さんもわかってますよね?ううん…航さんが一番わかってるはずです。」

 百合は勢いよく言った。

「そんな興奮すんな。」
「だって!」
「こんな時、何て言ったらいいか…。オレ頭良くねぇから…。」
「じゃあ…、思いついたこと、言ってみてください。」

 航はぽろぽろ言う。

「ありがとう」
「ずっと見てる、見てたい」
「安心」
「落ち着く」
「全部欲しい」
「好きだ」

 航の言葉を聞けば聞くほど、百合の目に涙が溢れていった。

「充分です…。充分すぎるほどです…。」

 不器用なふたり。肩を寄せ合う。ふたり、なかなか言葉が出ない。

「飯がまずくなるぞ。」
「はい…。」

 喜び溢れる涙のふたりのランチ。

 昼下がり。ふたりはベッドに寄りかかる。百合はずっとリングを見ていた。

「そんなに嬉しいか?」
「はい!だって、これがあれば航さんがいなくても、そばにいてくれてるような気分になります。」
「そうだな。」
「はい!宝物です!」
「オレは合鍵が宝物だ。」
「え?」
「いつでも夜這いができる。」
「もう気にしません。」

 百合はぷいっと横を向く。

「もうあんな思い、したくない。鍵があればいつでも行ける。あんたに会える。」

 横を向いていた百合が航を見ると、その航はうつむいていた。

「いつでも来て…。いつでも会いたい…。」

 うつむく航を見て、思わず百合から出てしまった台詞。しかし我に返るように百合は言った。

「だめ。それじゃ航さんに甘えることになる。」
「オレらは甘えん坊同士だな。」

 ふたりは目を合わせ笑った。笑いながら抱き合う。ふたりはずっとじゃれあっていた。

「航さん、焼き鳥食べたいです。」
「はぁ?またかよ。」
「はい、また、です。」

 手をつなぎ、焼き鳥屋に向かう途中。百合の歩き方がぎこちない。

「どうした?どこか痛いのか?」
「なんか…体中が痛い…筋肉痛…?」
「あー昨日、初めての運動したからな。」
「え…。」
「今日もするからすぐ治る。」
「えっ。」
「いいから行くぞ。」