テーブルの上が綺麗になり、百合は航の隣に座った。百合をじっと見る航。突然ぎゅっと抱きしめる。

「どうしたんですか??」
「シャワー浴びたい。」
「あ、じゃあ、バスタオル出しますね。」

 百合は航が箱を見たことを知らない。航の言動の本当の意味を知らない。

「あ、航さんの着替え…。長袖で、わかりやすい場所に置いといて…。」

 タオルで髪を拭きながら、航が戻ってくる。

「あんたも浴びろ。」
「え?あ、はい…。」

 百合は航の言われるがまま。百合はもう怖くない。肌はいつまでも白かった。その白い手を腕を見ながら百合はリビングに戻る。百合は気付く。

「あ…。」

 テーブルの上。『ヘイキ』と大きく書かれたコンドームの箱が置いてある。航と百合と箱、3人。沈黙。

「どうして平気だと思ったんだ。」
「どうしてって…。」
「ちゃんと考えたのか?自分の体と心のことだろ?」

 百合は黙ってしまう。でも本心を伝える。

「何も言えないのか?なのに…。」
「考える…ことじゃないと思いました…。考えるんじゃなくて、私の気持ちだけじゃだめですか?航さんが好きって気持ちだけじゃだめなんですか?私は…航さんでいっぱいで…苦しいくらいなのに…。」
「怖いとは思わないのか?」
「そういう気持ちは、ありません…。」

 航は頭を抱える。

「航さんは、何を考えてるんですか…?」
「…あんたを…傷つけたくねぇんだよ…。」
「航さん、逃げないって言ってくれたじゃないですか…。私も、逃げたくない…。」

 今度は航が黙りこむ。百合は航の首に手をまわし、きつくきつく抱きついた。

「合図しろって、航さんが言ったんじゃないですか…。これ以上、どう合図したらいいんですか…。」

 百合の気持ちが、痛いほど航の心に伝わる。百合を大切に想えば想うほど痛くなる。航は百合をやさしく抱きしめた。本当は強く抱きしめたい、そう思った航。答えは出ていた。

 航はそのまま百合を抱え上げ、百合をベッドに寝かせる。電気を消した航の背中は、何かを考えていた。そして航もベッドに上がる。航は百合に、やさしく、そしてゆっくり、言葉で百合を包み込むように言った。

「…いいか…?…少しでも、怖い、痛い…少しでも嫌だと思ったら、すぐに言うんだぞ…?いいな…?」

 百合の心、気持ちは変わらない。百合は透き通った目。

「はい…。」

 航の艶のある目。百合の目も心をも溶かす。航は百合にキスをした。

「航さん…。」
「どうした?」
「好きです…。」

 気持ちが溢れるふたり。

「オレもだ…。」

 ふたりは熱いキスをした。焼けるような熱いキス。唇が熱くなる。体が熱くなる。お互いの体温を肌で感じる。航は百合を知る、百合も航を知る。航のやさしさ、激しさ、全てを知る。

 航と百合はひとつになる、つながる。百合が航に染まった。