ビールを飲み、自分を落ち着かせる、もしくは少しでもテンションを上げようとしている百合。
「昨日、友江さん。綺麗だったな。」
「はい、すごく。」
「幸せそうで…ほんとよかった…。」
百合は少し気になったことを聞いてみた。そういえば、と。
「友江先輩と知り合いなんですか?」
航はやさしい顔で答える。
「まぁな。いい人だよな。会社でも、やっぱりいい人だったのか?」
百合はしょんぼりしながら答える。
「はい。いつも明るくて、ムードメーカーでした。元気のないような子にはすぐ声を掛けて…。私のこともよく気に掛けてくれて、昨日も心配してくれました。」
さらに百合はしょんぼり言う。
「もう1人、優しい先輩がいたんです。でも友江先輩が辞める少し前に突然辞めてしまって…心強かったのに…。優しい先輩が一気にふたりいなくなってしまって、ショックでした…。」
航は少しうつむいた。
「ふたりのいい先輩がいなくなるのはつらいな。」
「はい…。」
うつむいていた航が顔を上げる。
「でもこれからできるかもしれないぞ?」
「はい?」
「先輩かもしれねぇし、後輩かもしれねぇし、会社の人じゃないかもしれねぇ。誰か、いい人、やさしい人、心強くなれる人。これから出会える。いつになるかはわかんねぇけど…。でもそん時には、あがり症もなくなってるだろうよ。そのためにはまず人に慣れることだな。」
航の口からさらさら出る言葉は、百合の胸の中にやさしく入ってくる。柔らかで穏やかな春の風のように。入ってくればくるほど、航への想いが大きくなってく。その自覚のない百合は、ビールを飲む航に見惚れていた。
「なんだ?」
「はい?!」
「こっちが聞いてんだよ。」
笑う航。その航にも、百合は見惚れていた。
突然、百合は昨日の先輩の言葉を思い出した。
『最低限、連絡先の交換だけはしないとね。』
「あ、あの!」
「おお、今度はなんだ。」
「あの、連絡先を…。」
「…ああ、そうだな。またあんたに困ることあるかもしれないしな。」
航は笑って快く応えてくれた。
「降谷…。」
「降谷、百合。です。」
スマホをギュッと握りしめ、百合は言う。
「あの…。」
「どうした?」
「ライン、してもいいですか?」
「?何のために教えたんだよ。」
「いつすればいいですか?」
不思議に思う航。
「…いつでもいいんじゃねぇか?」
「何を言えばいいですか?」
航はさすがに聞いた。
「あんた、さっきっから何言ってんだ?大丈夫か?」
百合は少し震え、困惑する。
「…初めてなんです…。」
「何がだよ。あんたほんとに大丈夫…。」
「は、初恋なんです!」
百合は叫んだ。航も昨日と同じく叫ぶ。
「はぁ?!」
また、やはり沈黙しかなかった。困惑するふたり。
航は思い出した。昨日の結婚式。百合に一目惚れだと言われ、困った結果、社長の名刺を借り、とりあえずそれを渡したということを。しかしまた困ったことになった。
「悪い、オレ…。」
「あ…、好きな人がいるんですね。じゃあ私のことは忘れてください、なかったことにしてください。連絡先も消してください。」
珍しく百合は早口で言った。航は頭を抱える。
「いや、そうじゃねぇよ。ただオレ頭良くねぇから、こんな時なんて言ったらいいか…。」
「じゃあ何も言わなくていいです。忘れてください。」
百合はまた早口だった。
「それは違う…。」
そんな百合に対し、航はやさしかった。
「ラインなんて、それは気にすんなよ。いつでも何でもいい。朝起きたら、おはよう。夜寝る時、おやすみ。そんなんでも充分だ。今日は何があったとか、どこへ行ったとか、そーゆーの…。で、なんか特に嬉しいことつらいことがあったら、そん時思ったことをそのままラインすればいい。すげー長くなりそうなら電話しろ。うまいこと言える自信はないけどな。」
「で、電話…。」
「オレを実験台にしてもいい。」
「実験?」
「人に慣れるためだよ。」
航は少し切ない顔をした後に言う。
「これも何かの縁だ。なかったことになんかすんな。」
百合は感謝の気持ちも自分の想いも、何の言葉も出てこなかった。
「昨日、友江さん。綺麗だったな。」
「はい、すごく。」
「幸せそうで…ほんとよかった…。」
百合は少し気になったことを聞いてみた。そういえば、と。
「友江先輩と知り合いなんですか?」
航はやさしい顔で答える。
「まぁな。いい人だよな。会社でも、やっぱりいい人だったのか?」
百合はしょんぼりしながら答える。
「はい。いつも明るくて、ムードメーカーでした。元気のないような子にはすぐ声を掛けて…。私のこともよく気に掛けてくれて、昨日も心配してくれました。」
さらに百合はしょんぼり言う。
「もう1人、優しい先輩がいたんです。でも友江先輩が辞める少し前に突然辞めてしまって…心強かったのに…。優しい先輩が一気にふたりいなくなってしまって、ショックでした…。」
航は少しうつむいた。
「ふたりのいい先輩がいなくなるのはつらいな。」
「はい…。」
うつむいていた航が顔を上げる。
「でもこれからできるかもしれないぞ?」
「はい?」
「先輩かもしれねぇし、後輩かもしれねぇし、会社の人じゃないかもしれねぇ。誰か、いい人、やさしい人、心強くなれる人。これから出会える。いつになるかはわかんねぇけど…。でもそん時には、あがり症もなくなってるだろうよ。そのためにはまず人に慣れることだな。」
航の口からさらさら出る言葉は、百合の胸の中にやさしく入ってくる。柔らかで穏やかな春の風のように。入ってくればくるほど、航への想いが大きくなってく。その自覚のない百合は、ビールを飲む航に見惚れていた。
「なんだ?」
「はい?!」
「こっちが聞いてんだよ。」
笑う航。その航にも、百合は見惚れていた。
突然、百合は昨日の先輩の言葉を思い出した。
『最低限、連絡先の交換だけはしないとね。』
「あ、あの!」
「おお、今度はなんだ。」
「あの、連絡先を…。」
「…ああ、そうだな。またあんたに困ることあるかもしれないしな。」
航は笑って快く応えてくれた。
「降谷…。」
「降谷、百合。です。」
スマホをギュッと握りしめ、百合は言う。
「あの…。」
「どうした?」
「ライン、してもいいですか?」
「?何のために教えたんだよ。」
「いつすればいいですか?」
不思議に思う航。
「…いつでもいいんじゃねぇか?」
「何を言えばいいですか?」
航はさすがに聞いた。
「あんた、さっきっから何言ってんだ?大丈夫か?」
百合は少し震え、困惑する。
「…初めてなんです…。」
「何がだよ。あんたほんとに大丈夫…。」
「は、初恋なんです!」
百合は叫んだ。航も昨日と同じく叫ぶ。
「はぁ?!」
また、やはり沈黙しかなかった。困惑するふたり。
航は思い出した。昨日の結婚式。百合に一目惚れだと言われ、困った結果、社長の名刺を借り、とりあえずそれを渡したということを。しかしまた困ったことになった。
「悪い、オレ…。」
「あ…、好きな人がいるんですね。じゃあ私のことは忘れてください、なかったことにしてください。連絡先も消してください。」
珍しく百合は早口で言った。航は頭を抱える。
「いや、そうじゃねぇよ。ただオレ頭良くねぇから、こんな時なんて言ったらいいか…。」
「じゃあ何も言わなくていいです。忘れてください。」
百合はまた早口だった。
「それは違う…。」
そんな百合に対し、航はやさしかった。
「ラインなんて、それは気にすんなよ。いつでも何でもいい。朝起きたら、おはよう。夜寝る時、おやすみ。そんなんでも充分だ。今日は何があったとか、どこへ行ったとか、そーゆーの…。で、なんか特に嬉しいことつらいことがあったら、そん時思ったことをそのままラインすればいい。すげー長くなりそうなら電話しろ。うまいこと言える自信はないけどな。」
「で、電話…。」
「オレを実験台にしてもいい。」
「実験?」
「人に慣れるためだよ。」
航は少し切ない顔をした後に言う。
「これも何かの縁だ。なかったことになんかすんな。」
百合は感謝の気持ちも自分の想いも、何の言葉も出てこなかった。