「着いたぞ。階段、上れるか?」
目的地に着いたふたり。土手の階段。
「はい、大丈夫です。」
百合は航の手をとり、一段ずつゆっくり階段を上る。階段を上り切る。
「うわぁ…。」
百合が初めて見る景色、世界。既に何万人もの人が花火を待っていた。皆楽しそうに、何かを食べたり飲んだり話したり、笑っていた。ふたりはしばらく歩く。
「どうだ?すごいだろ。」
「はい…。ここの人達みんなが、花火を待ってるんですね…。」
百合の表情は活き活きとし、目は輝いていた。それを微笑ましく見る航。
「この辺にしよう。」
航はショルダーバッグから小さなシートを出した。
「座れ。」
「は、はい。」
草履を脱ぎ、慣れない動きでシートに座る百合。その姿も美しかった。そして小さなシート。必然的にふたりの距離が近くなる。なんとなく恥ずかしくなる百合。さっきまで航の腕を強く掴んでいたというのに。航はそんな百合をふと見た後、遠くを向く。航は百合の手を握った。どきっとする百合。
「いい眺めだな。」
航にそう言われ、百合は眺める。初めての景色、世界を。百合の目が輝く。
「はい…。」
航は、百合が不安がるような言葉は一切口にしなかった。そのまま花火を、この時を楽しんで欲しかった。徐々に日が暮れる。空が花火の準備を始める。
そして時間が来た。
ドンッ
胸を叩く大きな音。百合にとって、今まで聞いた音という音の中で一番大きな音。思わず航の手を強く握る。しかしそれは一瞬だった。その一瞬後、夜空に大きな、光る花が咲いた。数万人の歓声が上がる。
夜空に絶え間なく舞う、色とりどりに輝く花火。幻想的だった。百合は言葉を失う。ただ花火を見ていた。花火はどんどん打ち上がる。歓声も上がる。百合の目に花火が映り始めた頃、やっと言葉が出た。かすかな声。
「きれい…。」
百合はまた、航の手を強く握る。航は花火を見たまま、百合の手を強く握り返した。ふたりはずっと、同じ花火を見ていた。
ほんの少しだけ興奮が落ち着いた百合。花火と花火の間。
「きれい…。きれいですね、航さん…。」
百合は航を見る。航は花火を見ていた。百合は航をもう一度呼ぶ。
「…航さん?」
航は百合を見る、何も言わずに。百合は初めて見る、航の艶のある目。航の『大人』を感じ、魅了される百合。そんな航に、百合も何も言えなかった。しばらくふたりは見つめ合う。百合は胸が高まる。航はそっと呟いた。
「…どっちがだよ…。」
「…え…?何ですか…?」
航の声が、花火に消えていく。しかし次の声は、はっきりと聞こえた。
「あんたのほうがきれいだ。」
航はそう言った後、ゆっくり百合に顔を近づけ、やさしくキスをした。百合から音が消える。
百合は目を閉じる。真っ暗の中、航とふたりだけになる。真っ暗の中、花火の光に照らされる、ふたりだけの世界。
航の唇が離れる。百合はそっと目を開けると、現実の世界に戻っていた。下を向く百合。航は百合の背後に腕を回し、肩を抱く。百合の頭が航の肩にこつんとする。ふたりはそのまま、花火を見ていた。同じ花火を、ふたり一緒に見ていた。
航からのキス、花火の美しさ、幻想的な風景。百合は夢幻のように感じた。
目的地に着いたふたり。土手の階段。
「はい、大丈夫です。」
百合は航の手をとり、一段ずつゆっくり階段を上る。階段を上り切る。
「うわぁ…。」
百合が初めて見る景色、世界。既に何万人もの人が花火を待っていた。皆楽しそうに、何かを食べたり飲んだり話したり、笑っていた。ふたりはしばらく歩く。
「どうだ?すごいだろ。」
「はい…。ここの人達みんなが、花火を待ってるんですね…。」
百合の表情は活き活きとし、目は輝いていた。それを微笑ましく見る航。
「この辺にしよう。」
航はショルダーバッグから小さなシートを出した。
「座れ。」
「は、はい。」
草履を脱ぎ、慣れない動きでシートに座る百合。その姿も美しかった。そして小さなシート。必然的にふたりの距離が近くなる。なんとなく恥ずかしくなる百合。さっきまで航の腕を強く掴んでいたというのに。航はそんな百合をふと見た後、遠くを向く。航は百合の手を握った。どきっとする百合。
「いい眺めだな。」
航にそう言われ、百合は眺める。初めての景色、世界を。百合の目が輝く。
「はい…。」
航は、百合が不安がるような言葉は一切口にしなかった。そのまま花火を、この時を楽しんで欲しかった。徐々に日が暮れる。空が花火の準備を始める。
そして時間が来た。
ドンッ
胸を叩く大きな音。百合にとって、今まで聞いた音という音の中で一番大きな音。思わず航の手を強く握る。しかしそれは一瞬だった。その一瞬後、夜空に大きな、光る花が咲いた。数万人の歓声が上がる。
夜空に絶え間なく舞う、色とりどりに輝く花火。幻想的だった。百合は言葉を失う。ただ花火を見ていた。花火はどんどん打ち上がる。歓声も上がる。百合の目に花火が映り始めた頃、やっと言葉が出た。かすかな声。
「きれい…。」
百合はまた、航の手を強く握る。航は花火を見たまま、百合の手を強く握り返した。ふたりはずっと、同じ花火を見ていた。
ほんの少しだけ興奮が落ち着いた百合。花火と花火の間。
「きれい…。きれいですね、航さん…。」
百合は航を見る。航は花火を見ていた。百合は航をもう一度呼ぶ。
「…航さん?」
航は百合を見る、何も言わずに。百合は初めて見る、航の艶のある目。航の『大人』を感じ、魅了される百合。そんな航に、百合も何も言えなかった。しばらくふたりは見つめ合う。百合は胸が高まる。航はそっと呟いた。
「…どっちがだよ…。」
「…え…?何ですか…?」
航の声が、花火に消えていく。しかし次の声は、はっきりと聞こえた。
「あんたのほうがきれいだ。」
航はそう言った後、ゆっくり百合に顔を近づけ、やさしくキスをした。百合から音が消える。
百合は目を閉じる。真っ暗の中、航とふたりだけになる。真っ暗の中、花火の光に照らされる、ふたりだけの世界。
航の唇が離れる。百合はそっと目を開けると、現実の世界に戻っていた。下を向く百合。航は百合の背後に腕を回し、肩を抱く。百合の頭が航の肩にこつんとする。ふたりはそのまま、花火を見ていた。同じ花火を、ふたり一緒に見ていた。
航からのキス、花火の美しさ、幻想的な風景。百合は夢幻のように感じた。