後日。終業後、3人は会社から少し離れた大きなデパートに来ていた。

「これ可愛い!」
「こっちのほうが可愛いよー!」

 3人は浴衣売り場。花火大会に、思い切って浴衣を着て行こうと思った百合。百合は浴衣選びを、葵と舞に付き合ってもらった。この時も、2人は百合本人よりテンションが高い。百合はありがたく思い、微笑ましく見ていた。そして百合も浴衣を探す。

「沢山ありすぎて、見るだけで大変…。浴衣ってどんなのがいいんだろう…。どういうのが好きなんだろう、航さん…。」

 百合は初めて浴衣を着る。花火大会を、楽しいものにしたい、そうなりますようにと、百合は浴衣に願いを込める。葵と舞が近寄ってきた。

「ユリ、これ。私達2人とも意見が一致した浴衣。どう?」

 やわらかい色の浴衣だった。やわらかい水色の地に、やわらかいピンクと白の百合が沢山咲いていた。

「でね?帯はこのピンクと同じ色がいいと思うの。」
「もう少し年齢が高ければ、白い帯でもいいと思ったんだけどね。」
「どうかな?」
「はい…すごくかわいい…。」
「ちょっと合わせてみたら?」

 2人は店員を呼び、百合は軽い試着をした。それを見た葵と舞は驚愕する。何も言わない2人に、百合は不安になる。

「…似合いませんか、浴衣…。やっぱりやめようかな…。」
「だめ!やめちゃだめ!」
「え?」
「ユリ、すごい綺麗…。スタイルいいから似合うだろうとは思ってたけど…。」
「うん、綺麗。似合う。可愛い過ぎず、大人過ぎず。綺麗、ユリ。」

 百合は鏡を見る。少し背伸びをしているように見えた。しかし2人の選んだ浴衣の色はとても綺麗だった。百合は決める。

「これにします。」
「決まり!後は小物だね!」

 小物含め、浴衣一式を買った百合。少しだけ大人になったような気がしていた。3人はそのまま、そのデパートでご飯を食べることになった。最上階のレストラン街、夜景が綺麗だった。

「いいなぁ、浴衣着て彼氏と花火大会…。」

 舞が呟いた後、葵が言う。

「そういえば…あんなに人いる所、ユリ大丈夫?」
「あ…そうだね。そういうこと、彼氏わかってるんだよね?」
「はい。でも、人が沢山いるからこそ連れて行ってほしいって、私がお願いしたんです。すごく心配されましたけど…。」
「心配するよね…私が彼氏の立場なら、連れて行かないかも…。」
「でも、ユリの勇気を受け入れてくれたってことじゃない?」
「勇気?」
「そう、勇気。勇気がなかったら、そんなことお願いできないでしょ?」
「そっか…彼氏は百合の勇気を無駄にしたくなかった…。」

 葵はナイフとフォークを置き手を止め、百合を見つめる。そしてゆっくり言った。

「ユリの彼氏、ほんとにいい人なんだね。」
「ユリのこと、ちゃんと理解してくれてるし。」

 舞も言ってきた。2人に見つめられる百合。また葵が言う。

「会えてよかったね、その人に。応援するからね。」

 葵も舞も百合に微笑みかける。

「はい、ありがとうございます…。」

 百合は控え目な笑顔で感謝した。

「あーそのずるい笑顔も、彼氏が独り占めするんだねー。」
「ユリはもう彼氏のものだもんねー。」
「かれし…の、もの…。」
「そ、彼氏のもの。彼氏もユリのもの。」
「そう。彼氏のこともユリが独り占めだよ?」

 2人はまた会話を楽しむ。その間、百合はどきどきしていた。

「私が…独り占め…。」

 買い物も食事も終わり、3人は帰路につく。百合はアパートへ帰る、大きな荷物を持って。

 百合は難しい顔。パソコンとにらめっこ。浴衣に合う髪型を探していた。葵と舞のアドバイスを思い出しながら。

「髪は必ずアップ、でも夜会巻きはだめ、気合いを入れすぎるとキャバ嬢、ってどんな髪型??夜会巻きとキャバ嬢の間??んー…、お弁当より難しい…。」

 花火大会まで、あと少し。