笑い合いながら食べる焼き鳥は、さらにおいしさが増した。おいしい時間。ビールを飲む百合は、壁のポスターに気付き見上げた。航も気付く。花火大会のポスターだった。足立の花火。東京で一番早い花火大会。

「もうすぐだな、花火大会。みんな好きだよな、こーゆーイベント事。特に女は。」

 航は何気なく言った。嫌味もひがみも、何もなかった。百合も言う、嫌味もひがみも何もなく。

「私は、今までイベントなんてひとつもないです。何もしたことないです。」

 その言葉が少し気になった航は百合を見る。百合は平然とした顔でポスターを見ていた。

「花火の日、すごいですよね…。」

 百合は人を、何かを怖れる顔。

「会社のほうまで屋台が並んで。お祭り騒ぎ?なんでしょうね。駅もホームも電車の中も、ずーっと人が多くて…それを通り抜けてやっとアパートに着くって感じで。」

 最後に百合は小さな声。

「いいなぁって…。」

 言い終わった後、百合は一息入れて、おいしそうに焼き鳥を食べ始める。

「おいし…。」

 そんな百合をじっと見る航。頭を抱え、考える。考えていた答えが出た。その答え合わせを百合にする。

「行くか?花火大会。」
「え?」
「見たいか?花火。」

 百合はまたポスターを見上げた。航の質問の答えを考える。

「行きたくないならそれでいい。人がごった返すような場所にわざわざ行くことねぇ。でかい花火大会だから、少し離れた場所からでも充分綺麗に見える。」

 百合も航に答え合わせをする。

「花火が一番よく見える場所はどこなんですか?」
「河川敷か土手だな。河川敷で打ち上げるんだよ。」

 百合の答えはすぐに出る。

「そこに行きたいです。河川敷か土手に。」

 航は百合の答えに疑問を抱く。

「あんた本気で言ってるのか?」
「はい。」
「じゃあ、何万人て人が集まる場所に行ったことがあるか?駅や電車とは訳が違う。人がうじゃうじゃいて真っ直ぐに歩くこともできねぇ…。」
「だからです。人が沢山いるからこそ行きたいんです。」

 航は困惑する。誘ったことを後悔した。航はボソッと言う。

「言うんじゃなかったな…。悪い…。」

 百合でもわかるほど、航は困惑していた。百合は再び考える。しばらく目を閉じ想像する。でも結局は、自分には想像のつかない世界なのだろうと百合は思った。航と一緒なら挑戦できると思った百合は、目を開け答える。

「行きたいです、航さんと一緒に。行って、航さんと一緒に花火を見たいです。連れて行ってください。」

 百合は航に向ける目を強くする。想いが届くようにと。

「行きたいんです…。…隣に…いてもらえませんか…?」

 航はまた考える。頭を抱える。頭を抱えながら言った。

「…絶対、離れるなよ…。」

 百合は笑顔で返事をした。