自分の会社まで歩く百合。さっき航に会い、お弁当を渡した。その事実を自分自身で確かめ、噛みしめる。仕事は上の空。そしてお昼の時間があっという間に来た。いつものように葵が迎えに来る。

「ユリー!お疲れ!」

 喫茶室・ジョリン。そわそわしている百合に、葵も舞もすぐ気づき、心配になる。

「ユリ、どうかした?」
「え??」
「何かに脅えてるようには見えないし…。」
「あ、あの…実は…。」

 百合は深呼吸をし、目を閉じる。

「今朝、お弁当、渡してきました…。」

 葵、舞。2人とも目を見開く。

「え、お弁当って、あのお弁当箱選んだ人…?」
「出勤前に??」
「はい…色々と、緊張しました…。」

 2人は喜ぶ。百合本人より喜んでいる。

「やったねユリ!おめでとう!」
「え…?」
「ユリ偉い!」
「偉いって…。」
「有言実行!すごい!」
「そう…でしょうか…。」

 自信がないような顔をする百合。事実を噛みしめながら出勤したはずが、まだふわふわし、確かな実感がなかった。そんな百合に、2人はいつものように優しかった。葵は百合の腕を優しく握る。

「ユリは頑張ったんだよ?」
「前進したね、ユリ。」
「成長もしたんじゃない?初めて会った頃なんて、私たちにもビクビクして、すぐ顔赤くしてたのに。」
「確かに!」

 百合はまた2人に励まされ、背中を押してくれた。

「ありがとうございます、いつも…。」

 百合は控え目に笑って礼を言った。

「あ!またその笑顔!ずるい笑顔!可愛いすぎる笑顔!」
「え…。」
「あー、練習するって言ってしてなーい!」
「だから舞には無理ー!」

 そんな頃、工場でもお昼の時間。航は百合に言われた通り、お弁当を冷蔵庫から出し、レンジで温める。そのお弁当に最初に気付いたのは社長だった。

「なんだ?航。今日は愛妻弁当か?お前も隅に置けねぇなあ!」

 それを聞いた他の従業員たちは航に食い付く。

「先輩!まじっすか!」
「彼女いたんすか?!」
「あ、今朝いたよな、すげースタイルいい女!」
「今度、紹介してくださいよ!先輩!」

 航は散々いじられる。めんどくさそうに航は答える。

「うるせーな、そんなんじゃねーよ。」
「じゃあ、何なんすか?」

 航は止まる、考える。

「…なんだ?」
「何すか、それ!」
「やっぱ愛妻弁当じゃないっすかー!」
「俺もいねーかなー、作ってくれる女。」
「お前は無理だよ!」

 周りは盛り上がっている。そんな中、航は巾着袋の底に何かが残って入っているのが見えた。航は手に取ってみる。それは百合からのメッセージカード。

 お疲れ様です
      百合

 百合からの想いやりだった。お弁当と想いやりが巾着袋に入っていた。その想いやりを、航は受け取った。そしてお弁当箱のふたを開ける。

「すげー豪華!」
「うまそー!」
「先輩すごいっすね!」

 また取り巻きが騒ぎ出した。それは見事なお弁当だった。バランスのいいおかずが綺麗に並び、配色も綺麗だった。そして忘れない、卵焼き。おかずの真ん中に入っていた。航は思わず言った。小さな声で。

「あいつ…。」

 そう言う航の目はやさしかった。

「ありがたく、いただくぞ…。」

 そんなふたりのお昼時間。