妊婦さんは、苦しそうだったので、私は席か

ら立ち上がり、自分のカバンを席に置き、誰

も座らせないようにしてから妊婦さんの元に

向かった。

「あの、良かったら座ってください。」

「…え?」

私は、席を指差し、背中を支えながら誘導し

た。

「ありがとう。助かったわ。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。…お腹の赤ちゃ

ん、無事生まれますように。」

私は、一言付け足すようにお腹を擦ってあげ

た。

駅に着くと、私は背を向け歩き出そうとした

その瞬間、

『ありがとう、お姉ちゃん。』

私は、その言葉に思わず振り向いてしまっ

た。

妊婦さんは、大事にお腹をさすり、さっきよ

り顔色が良くなっていたので、私はホッと安

心した。

その言葉は、今まで聞いた中でとても優しく

温かい言葉だった。

私は、こぼれる涙をグッとこらえるように歯

を食いしばった。

これから生まれてくる、命の声が聞こえるの

も悪くないと思った瞬間だった。