「一週間くらいすれば、時間ができると思うんです。仕立ての納期がありまして」
そのような話をした文子は三人に会釈し、「それでは急ぎますので」と、新品のように綺麗な草履で去っていった。
その後ろ姿に大吉は既視感を覚える。
(あれ、なんだろう。誰かに似ているような……)
その感覚は一瞬だけで、道の角を曲がって文子が見えなくなれば、すぐに忘れてしまう。
「大吉、ありがとう。君のおかげだ!」
歓喜の中にいる清が抱きついてきたので、大吉は慌てて両腕で突っぱねた。
「感謝は言葉だけでいい。男に抱きつかれても、ちっとも嬉しくないぞ」
頬を膨らませた大吉に幸治が笑い、清は文句を聞き流して、流行歌を口ずさみながら小躍りしている。
浮かれている清は面白く、大吉も吹き出した。
ランデブー計画の一段階目が成功したと喜ぶ三人の、明るい笑い声が響いていた。
翌日の夕方、大吉はいつものように浪漫亭の厨房で働いている。
今日のディナーは団体客の予約が入っているとのことで、同じ料理を十九人分作るそうだ。
茹で卵十九個の殻を大吉がむき、柘植がその卵に肉だねを纏わせていく。
それはスコッチエッグという料理の下拵えで、客が来店してから油で揚げて、トマトソースをかけて完成させる。
卵も肉も大吉の好物であるため、まだ揚げる前のスコッチエッグに腹が鳴って仕方ない。
すると森山が「グウグウうるせぇな」と、調理台に賄い飯の皿を置いてくれた。
「忙しくならないうちに食っとけ」
ぶっきら棒な言い方をする森山だが、大吉が腹を空かせているのに気づくと、いつもなにかしら食べさせてくれる。
大吉はお礼を言って、目を輝かせた。
平皿には山盛りのご飯と、挽肉と玉葱の入ったオムレツがのせられ、トマトソースで彩られている。
そのような話をした文子は三人に会釈し、「それでは急ぎますので」と、新品のように綺麗な草履で去っていった。
その後ろ姿に大吉は既視感を覚える。
(あれ、なんだろう。誰かに似ているような……)
その感覚は一瞬だけで、道の角を曲がって文子が見えなくなれば、すぐに忘れてしまう。
「大吉、ありがとう。君のおかげだ!」
歓喜の中にいる清が抱きついてきたので、大吉は慌てて両腕で突っぱねた。
「感謝は言葉だけでいい。男に抱きつかれても、ちっとも嬉しくないぞ」
頬を膨らませた大吉に幸治が笑い、清は文句を聞き流して、流行歌を口ずさみながら小躍りしている。
浮かれている清は面白く、大吉も吹き出した。
ランデブー計画の一段階目が成功したと喜ぶ三人の、明るい笑い声が響いていた。
翌日の夕方、大吉はいつものように浪漫亭の厨房で働いている。
今日のディナーは団体客の予約が入っているとのことで、同じ料理を十九人分作るそうだ。
茹で卵十九個の殻を大吉がむき、柘植がその卵に肉だねを纏わせていく。
それはスコッチエッグという料理の下拵えで、客が来店してから油で揚げて、トマトソースをかけて完成させる。
卵も肉も大吉の好物であるため、まだ揚げる前のスコッチエッグに腹が鳴って仕方ない。
すると森山が「グウグウうるせぇな」と、調理台に賄い飯の皿を置いてくれた。
「忙しくならないうちに食っとけ」
ぶっきら棒な言い方をする森山だが、大吉が腹を空かせているのに気づくと、いつもなにかしら食べさせてくれる。
大吉はお礼を言って、目を輝かせた。
平皿には山盛りのご飯と、挽肉と玉葱の入ったオムレツがのせられ、トマトソースで彩られている。