顔つきは優しげで、口を開かなければ女にもてそうな雰囲気もあった。
「だから、やめておけと言ったのにな。子供顔の大吉が入れるカフェーはないだろう」
ひょろりとした体を揺すって笑う七分刈り頭の少年は、幸治である。
彼は、良くも悪くも正直だ。
自動車が好きな幸治は、大吉が左門の高級車に乗った話をすれば、羨ましいと率直に口にする。
それゆえ大吉は、しばしば優越感に浸らせてもらえるのだが、小柄で童顔なところを一切の気遣いなくからかってもくるので、しばしば喧嘩になる。
今も大吉はムッとして、幸治に言い返した。
「顔は関係ない。学生服が問題だったんだ。今度は着替えてくるから、入れてもらえるさ!」
「大吉なら、一張羅に着替えても無理だろう。七五三だと思われそうだ」
「なんだって!?」
喧嘩になりそうなふたりの間に入った清が、「まぁまぁ」と大吉を宥める。
「大吉がレストランで働いて大金を稼いだことを、僕らは立派だと話していたんだ。だからさ、機嫌を直してミルクホールへ行こう」
「だからとは、どういうことだ? 僕は(おご)らないぞ」
「たかるつもりはないから安心しろよ。むしろ飲み物代くらいは僕が出そう。実はさ、親友のふたりに折り入って相談が……」
急に真顔になった清がそんなことを言いだすから、大吉と幸治は顔を見合わせた。
清の実家は函館の隣町にあり、大吉と同じように両親を説き伏せて高校に入学し、下宿生活を送っている。
もしや、退学して実家に呼び戻されるのではないかと心配したふたりだが、目を泳がせた清が「恋をしているんだ」と言うから吹き出してしまった。
「僕は真剣に悩んでいるんだ。笑わないでくれ」
顔を赤らめて抗議する清に大吉はニヤリとし、先ほどの仕返しとばかりに肩を叩いて言った。
「愉快そうな話だな。笑わない約束はできないけど、ぜひとも聞かせてもらおう。幸治もそう思うだろ?」