本当はねぎらいの意味で呼んでくれたのではないかと推測し、感謝して食べることにする。
「カレーソースが二種類ありますね。これは?」
不思議に思って問えば、左門が微笑した。
「過去と現在を食べ比べ、浪漫亭の歴史を感じるが良い」
つまりひとつは、二十八年前に出していたカレーソースだということだ。
過去のレシピを再現した話を聞いた時、羨ましく思っていた大吉なので、気分はさらに高揚する。
目を輝かせながら、早速、過去のものから食べることにした。
大盛りご飯の右半分にソースをかけて、スプーンで口に運べば、牛肉の旨味が溶け出したまろやかで刺激的な味わいが口内に広がった。
ご飯に添えられているのは紅生姜で、合わなくはないが、現在のライスカレーに添えられている酢漬けのらっきょうの方が相性がいいかもしれない。
「左門さん、昔のライスカレーも美味しいですね。香辛料の辛味を和らげているこの柔らかな味が、ココヤシの実の汁なんですか?」
「いかにも。ココナッツミルクと呼ばれている。今のレシピと、どちらが好みだ?」
「それは……今の方ですね。深みが違う。でもこれもかなり美味しいですよ。その時の気分によって選べたらいいのに。メニューに復活させてはどうですか?」
「そうだな。改良は必要だが、検討してみよう」
会話をしながらでも、あっという間に昔のライスカレーを食べ終えた大吉は、続いてビフテキにナイフを入れ、大口で頬張った。
「ん?!」
厚切り牛ヒレ肉の表面は香ばしく、中は半生で柔らかいのに、噛みごたえもあるという焼き具合は最高だ。
コック見習いという立場の大吉は、フライパンやオーブン調理をやらせてもらえない。
焼くという一見すると単純な行為は、コックの技が光る難しい調理工程なのだとしみじみ感じていた。
ソースは醤油を基調としていても、これは間違いなく西洋料理で心が躍る。