君枝が感じた違いは漠然としたものであるが、以前食べたライスカレーの方が美味しかったと思っていることは、表情や話し方から窺えた。
一方、松太郎と正一郎は、なにかをはっきりと感じ取ったらしく、目を見開いている。
「こ、この味は……」
正一郎が絞り出すように呟いてスプーンを手から滑り落とし、松太郎は険しく顔をしかめた。
左門は余裕の表情で後ろ手を組み、松太郎に感想を求める。
「二十八年前のライスカレーの味は、いかがですか?」
ライスカレーは今の浪漫亭のレシピで作られたものではなく、過去の味。
ふたりの驚き方から察するに、おそらくスエが自宅で作っていたライスカレーと同じ味がしたのではないだろうか。
“二十八年前”と離縁した年を示されたこともあり、松太郎の眉間には深い皺が刻まれた。
「どういうことだ?」
鋭い視線と問いかけは、隣で青ざめている正一郎に向けられたものである。
スエに関することを、息子が勝手に他人に話したのだと思ったのだろう。
「いや、その――」
しどろもどろになっている正一郎に代わり、左門が説明する。
「あなたの離縁についてのお話は息子さんから聞きましたが、スエさんに会いに行き、当時のライスカレーの再現レシピを書いたのは、私が独断でしたことです」
「スエに会いに行っただと? わしになんの恨みがあるのか知らんが、こんな仕打ちをするために、わざわざ作り方を教わりに行ったとはご苦労なことだ」
「教わったのではありません。スエさんは痴呆症にかかってしまわれ、会話が成立しません。そのため、他の方法で再現しました」
交流を断たなかった正一郎は、密かに母親の世話を焼いてきたが、松太郎はスエの現状を少しも知らなかったようである。
険しくしかめられた顔はそのままに、「痴呆……」と呟いて、少なからず衝撃を受けている様子だ。
一方、松太郎と正一郎は、なにかをはっきりと感じ取ったらしく、目を見開いている。
「こ、この味は……」
正一郎が絞り出すように呟いてスプーンを手から滑り落とし、松太郎は険しく顔をしかめた。
左門は余裕の表情で後ろ手を組み、松太郎に感想を求める。
「二十八年前のライスカレーの味は、いかがですか?」
ライスカレーは今の浪漫亭のレシピで作られたものではなく、過去の味。
ふたりの驚き方から察するに、おそらくスエが自宅で作っていたライスカレーと同じ味がしたのではないだろうか。
“二十八年前”と離縁した年を示されたこともあり、松太郎の眉間には深い皺が刻まれた。
「どういうことだ?」
鋭い視線と問いかけは、隣で青ざめている正一郎に向けられたものである。
スエに関することを、息子が勝手に他人に話したのだと思ったのだろう。
「いや、その――」
しどろもどろになっている正一郎に代わり、左門が説明する。
「あなたの離縁についてのお話は息子さんから聞きましたが、スエさんに会いに行き、当時のライスカレーの再現レシピを書いたのは、私が独断でしたことです」
「スエに会いに行っただと? わしになんの恨みがあるのか知らんが、こんな仕打ちをするために、わざわざ作り方を教わりに行ったとはご苦労なことだ」
「教わったのではありません。スエさんは痴呆症にかかってしまわれ、会話が成立しません。そのため、他の方法で再現しました」
交流を断たなかった正一郎は、密かに母親の世話を焼いてきたが、松太郎はスエの現状を少しも知らなかったようである。
険しくしかめられた顔はそのままに、「痴呆……」と呟いて、少なからず衝撃を受けている様子だ。