それで今後も左門と対局を重ねたいとの思いから、熱心に囲碁クラブへの入会を勧めたのに、仕事が忙しいとの理由で断られたらしい。
「また遊びに行かせてもらいます。その際には一局、お相手願いたい」
口の端をニッと吊り上げた左門に右手を差し出され、松太郎は握手を交わした。
その目は明らかに動揺している。
碁を通じて敬意と好感を抱いた相手が、憎むべき浪漫亭のオーナーであったと知り、どういう顔をしていいのかわからぬ様子である。
それと同時に、この招待の主たる目的が、自分を呼び出すためではないかと勘付いたようで、「わしに、なにか――」と言いかける。
けれども左門が不思議そうに首を傾げて見せたため、黙ってしまった。
大吉を背中に隠していた穂積は、いつの間にか厨房に行っており、ワゴンに新たな皿をのせて戻ってきた。
五人分のライスカレー用の皿には少なめのご飯が盛られ、ソース入れも人数分ある。
ソース入れは銀製で、先が尖った船形をしており、持ち手と脚が付いている。
そこに半量のカレーソースが入っていた。
「お出ししてもよろしいですか?」と問う穂積に、左門は頷く。
これに戸惑ったのは、中江家の大人達と大吉である。
アイスクリームを食べた後にライスカレーとは、これいかに。
それに加え、「あの、もう満腹なので……」と君枝が困り顔になるのも頷けた。
それでも中江一家の前にはそれぞれにひと皿ずつのライスカレーが並べられ、左門が手のひらで指し示す。
「残しても構いません。味見程度で結構ですのでお召し上がりください」
「お腹一杯」と言いながらも、子供らは率先して、カレーソースを皿に流し入れている。
困惑気味な中江家の大人達もソースをかけ、スプーンですくった。
ひと口味わって首を傾げたのは、君枝だ。
「この前とお味が違いますね。なんと言いますか、昔懐かしいような……」
「また遊びに行かせてもらいます。その際には一局、お相手願いたい」
口の端をニッと吊り上げた左門に右手を差し出され、松太郎は握手を交わした。
その目は明らかに動揺している。
碁を通じて敬意と好感を抱いた相手が、憎むべき浪漫亭のオーナーであったと知り、どういう顔をしていいのかわからぬ様子である。
それと同時に、この招待の主たる目的が、自分を呼び出すためではないかと勘付いたようで、「わしに、なにか――」と言いかける。
けれども左門が不思議そうに首を傾げて見せたため、黙ってしまった。
大吉を背中に隠していた穂積は、いつの間にか厨房に行っており、ワゴンに新たな皿をのせて戻ってきた。
五人分のライスカレー用の皿には少なめのご飯が盛られ、ソース入れも人数分ある。
ソース入れは銀製で、先が尖った船形をしており、持ち手と脚が付いている。
そこに半量のカレーソースが入っていた。
「お出ししてもよろしいですか?」と問う穂積に、左門は頷く。
これに戸惑ったのは、中江家の大人達と大吉である。
アイスクリームを食べた後にライスカレーとは、これいかに。
それに加え、「あの、もう満腹なので……」と君枝が困り顔になるのも頷けた。
それでも中江一家の前にはそれぞれにひと皿ずつのライスカレーが並べられ、左門が手のひらで指し示す。
「残しても構いません。味見程度で結構ですのでお召し上がりください」
「お腹一杯」と言いながらも、子供らは率先して、カレーソースを皿に流し入れている。
困惑気味な中江家の大人達もソースをかけ、スプーンですくった。
ひと口味わって首を傾げたのは、君枝だ。
「この前とお味が違いますね。なんと言いますか、昔懐かしいような……」