子供のことで浪漫亭の迷惑になるからと断ろうとしている君枝に、大吉はそのような気遣いなら無用であることを伝えた。
「おそらくオーナーは、それを考えて開店前にと言ったのだと思います。他にお客様がいませんので、大人の方もどうぞ普段着のままでお越しください」
子供達は「静かにする」と約束しつつも、バタバタキャッキャと騒がしい。
かなり興奮しているところを見ると、レストランは初めてなのだろう。
これほどまでに喜ばれては、中江夫妻も招待を受けないとは言い難いようである。
けれども、今日は着物姿の正一郎が、他にも問題は残されていると言いたげに唸っていた。
「中江さん、まだなにかありますか?」
「いや、その、招待状には必ず家族全員でと書かれていたのだが……」
「はい、そうです。ひとりでも欠けては困るようです。理由は僕にもわかりません」
その時、茶の間からもうひとり、大人の男が出てきた。
夏物の藍の着物をきっちりと着た七十歳ほどに見える老人で、四角い顔の鼻の下には短く刈り揃えた白髪の髭を蓄えている。
中江家の家族構成を知っている大吉なので、紹介されずとも、正一郎の父親であるとわかった。
確か名前は、松太郎である。
「断れと言ったろう。わしは行かんぞ。浪漫亭など、虫唾が走る。どうしてもと言うなら、お前達だけで行ってこい」
目を吊り上げて最初からの怒り口調。
沸点が低いところは、似た者親子と言うべきか。
元妻であるスエの不貞を考えれば致し方ないのかもしれないが、それにしてもと大吉はムッとした。
(招待だぞ。無料で高級料理が食べられるというのに、なんて言い草だ。代われるものなら僕が客として行きたいくらいだ)
浪漫亭を馬鹿にされた気分で立腹し、大吉は不機嫌さを隠さずに言う。
「おそらくオーナーは、それを考えて開店前にと言ったのだと思います。他にお客様がいませんので、大人の方もどうぞ普段着のままでお越しください」
子供達は「静かにする」と約束しつつも、バタバタキャッキャと騒がしい。
かなり興奮しているところを見ると、レストランは初めてなのだろう。
これほどまでに喜ばれては、中江夫妻も招待を受けないとは言い難いようである。
けれども、今日は着物姿の正一郎が、他にも問題は残されていると言いたげに唸っていた。
「中江さん、まだなにかありますか?」
「いや、その、招待状には必ず家族全員でと書かれていたのだが……」
「はい、そうです。ひとりでも欠けては困るようです。理由は僕にもわかりません」
その時、茶の間からもうひとり、大人の男が出てきた。
夏物の藍の着物をきっちりと着た七十歳ほどに見える老人で、四角い顔の鼻の下には短く刈り揃えた白髪の髭を蓄えている。
中江家の家族構成を知っている大吉なので、紹介されずとも、正一郎の父親であるとわかった。
確か名前は、松太郎である。
「断れと言ったろう。わしは行かんぞ。浪漫亭など、虫唾が走る。どうしてもと言うなら、お前達だけで行ってこい」
目を吊り上げて最初からの怒り口調。
沸点が低いところは、似た者親子と言うべきか。
元妻であるスエの不貞を考えれば致し方ないのかもしれないが、それにしてもと大吉はムッとした。
(招待だぞ。無料で高級料理が食べられるというのに、なんて言い草だ。代われるものなら僕が客として行きたいくらいだ)
浪漫亭を馬鹿にされた気分で立腹し、大吉は不機嫌さを隠さずに言う。