台所も同じようにぐちゃぐちゃに散らかっており、汚れた着物が山となった洗濯ダライが目についた。
(すごい量の洗濯物。洗濯ができなくなってしまったのか。脱いではここに置き、汚れ物を引っ張り出してまた着ているのかな……)
スエは家に帰ってきてからひと言も発することなく、表情もない。
かなり歩き回ったため、疲れてしまったのだろう。
続き間に入ると敷きっ放しの布団にごろりと横になり、大吉達がいることを忘れているのか、すぐに寝息を立て始める。
(痴呆という病は恐ろしいな。中江さんが通って世話をしていると言っていたから、食事はしているのだろう。けれど、仕事の合間に訪ねるくらいじゃ、掃除洗濯まではやってあげられないのかもしれない)
大吉は転がっていた草履を履いて土間に下り、台所に立った。
食べられない弁当の中身を捨て、洗い物を始める。
無賃で他人に奉仕するのは、スエを気の毒に思うからに他ならない。
一方、左門は絹のハンカチーフで鼻と口を覆いつつ、茶箪笥の引き出しを開けて物色している。
資産家の彼なので金目の物を探しているわけではないと思うが、一体なにを狙っているのか。
洗い物をしながらチラチラと様子を窺っていれば、左門が古い雑記帳を見つけて取り出していた。
薄い和紙を束ねて紙のこよりで綴ってある雑記帳には、なにが書かれているのか。
それを捲る左門の横顔が徐々に険しくなっていく。
大吉は気になって問いかけた。
「左門さん、どうしたんですか?」
「新たな謎が発生したのだ。ライスカレーのな」
「はい?」
ライスカレーのなにが謎だというのだろうと、大吉は完全に洗い物の手を止めた。
左門は雑記帳を丁寧にハンカチーフで拭いてから抱鞄にしまうと、ひとりだけ先に帰ろうとしている。
「君は、この家を住める状態にしてから帰りたまえ。洗濯もしてやりなさい。今日の浪漫亭の仕事は休んで良い」
(すごい量の洗濯物。洗濯ができなくなってしまったのか。脱いではここに置き、汚れ物を引っ張り出してまた着ているのかな……)
スエは家に帰ってきてからひと言も発することなく、表情もない。
かなり歩き回ったため、疲れてしまったのだろう。
続き間に入ると敷きっ放しの布団にごろりと横になり、大吉達がいることを忘れているのか、すぐに寝息を立て始める。
(痴呆という病は恐ろしいな。中江さんが通って世話をしていると言っていたから、食事はしているのだろう。けれど、仕事の合間に訪ねるくらいじゃ、掃除洗濯まではやってあげられないのかもしれない)
大吉は転がっていた草履を履いて土間に下り、台所に立った。
食べられない弁当の中身を捨て、洗い物を始める。
無賃で他人に奉仕するのは、スエを気の毒に思うからに他ならない。
一方、左門は絹のハンカチーフで鼻と口を覆いつつ、茶箪笥の引き出しを開けて物色している。
資産家の彼なので金目の物を探しているわけではないと思うが、一体なにを狙っているのか。
洗い物をしながらチラチラと様子を窺っていれば、左門が古い雑記帳を見つけて取り出していた。
薄い和紙を束ねて紙のこよりで綴ってある雑記帳には、なにが書かれているのか。
それを捲る左門の横顔が徐々に険しくなっていく。
大吉は気になって問いかけた。
「左門さん、どうしたんですか?」
「新たな謎が発生したのだ。ライスカレーのな」
「はい?」
ライスカレーのなにが謎だというのだろうと、大吉は完全に洗い物の手を止めた。
左門は雑記帳を丁寧にハンカチーフで拭いてから抱鞄にしまうと、ひとりだけ先に帰ろうとしている。
「君は、この家を住める状態にしてから帰りたまえ。洗濯もしてやりなさい。今日の浪漫亭の仕事は休んで良い」