商売人なら買い付ける手段もあるだろうと期待し、チーズかまぼこを提案したのだ。
けれども、「チーズ?」と眉を上げた大将に、渋い顔をされてしまう。
「いっぺん食ったが、ありゃ西洋人の食いもんだ。俺らの舌には合わねぇな。かまぼこに練り込んだら、けったいな食いもんになっちまう」
隣では女将も同調して頷いている。
試作するに値しないと言いたげな表情だ。
自信があった分がっかりした大吉だが、すぐさま次を提案する。
「それなら、カレー粉を混ぜたちくわは?」
「チーズよりは良さそうだけどよ……売れねぇな。煮込めば、おでんなのかライスカレーなのか、わかんなくなっちまう」
腕組みをしていた大将は、息をついて大吉の肩をポンと叩くと、気を取り直したように笑って言った。
「無理に考えんでもいい。なにかひらめいた時に教えてくれ。まずは勉強道具を部屋に置いてこい」
「はい……」
ちょうど客が来たので大将は持ち場に戻り、女将も「あらやだ、揚げ物の途中だった」と慌てて調理場へ戻っていった。
大吉は店舗の奥に進み、土間で下駄を脱いで板の間に上がる。
すぐ横には二階へと続く踏み幅の狭い急階段があり、そこを上った。
二階に一室、四畳半の部屋を借りている。
寝具や着替え、勉強道具に洗面用具などの全ての私物は、その部屋に置いてある。
軋む二階の廊下を歩きながら、大吉は「なんだよ」と不満を呟いた。
試しもしないで、新商品の提案を却下されたのが面白くないのだ。
(今日の夕食も売れ残りの煮物だろうな。せっかく函館に住んでいるのに、ちっとも洋食を食べられない……)
仕送りは生活するのにギリギリの金額で、洋食レストランに行けるはずもなく、トンカツやビーフシチュー、オムレツライスは今もなお、憧れのままである。
それらを頭に描いた大吉は、空腹を感じつつ自室の襖を開けたのであった。
時刻は午後六時半。
けれども、「チーズ?」と眉を上げた大将に、渋い顔をされてしまう。
「いっぺん食ったが、ありゃ西洋人の食いもんだ。俺らの舌には合わねぇな。かまぼこに練り込んだら、けったいな食いもんになっちまう」
隣では女将も同調して頷いている。
試作するに値しないと言いたげな表情だ。
自信があった分がっかりした大吉だが、すぐさま次を提案する。
「それなら、カレー粉を混ぜたちくわは?」
「チーズよりは良さそうだけどよ……売れねぇな。煮込めば、おでんなのかライスカレーなのか、わかんなくなっちまう」
腕組みをしていた大将は、息をついて大吉の肩をポンと叩くと、気を取り直したように笑って言った。
「無理に考えんでもいい。なにかひらめいた時に教えてくれ。まずは勉強道具を部屋に置いてこい」
「はい……」
ちょうど客が来たので大将は持ち場に戻り、女将も「あらやだ、揚げ物の途中だった」と慌てて調理場へ戻っていった。
大吉は店舗の奥に進み、土間で下駄を脱いで板の間に上がる。
すぐ横には二階へと続く踏み幅の狭い急階段があり、そこを上った。
二階に一室、四畳半の部屋を借りている。
寝具や着替え、勉強道具に洗面用具などの全ての私物は、その部屋に置いてある。
軋む二階の廊下を歩きながら、大吉は「なんだよ」と不満を呟いた。
試しもしないで、新商品の提案を却下されたのが面白くないのだ。
(今日の夕食も売れ残りの煮物だろうな。せっかく函館に住んでいるのに、ちっとも洋食を食べられない……)
仕送りは生活するのにギリギリの金額で、洋食レストランに行けるはずもなく、トンカツやビーフシチュー、オムレツライスは今もなお、憧れのままである。
それらを頭に描いた大吉は、空腹を感じつつ自室の襖を開けたのであった。
時刻は午後六時半。