興味本位で弁当の蓋を開け、顔をしかめる。
一体いつ炊いたのかわからない黄色くなった白米に、泥々の黒い煮物と漬物が入っている。
漬物はニシン漬けで、食べられそうにない酸っぱい香りがツンと鼻についた。
(これを食べれば腹を壊すぞ。完全に僕を息子だと思い込んでいるから、返せそうにもないし、どうするか……)
そっと弁当箱の蓋を閉じた大吉は、ぎこちない笑みを浮かべて老女に言う。
「お母さん、今日は学校が休みなんです。一緒に家に帰りましょう」
このまま老女と別れては、無事に帰り着いたか気になりそうだ。
自宅まで送り届けて、家の人に事情を話そうと考えていた。
弁当も、家の人に返せばいいだろう。
「そうかい」
大吉の嘘をすんなりと受け入れた老女は、しゃんしゃんとした足取りで歩きだす。
一切の化粧っ気がなく、髪は乱れて身嗜みがひどい有様になっているため老けて見えたが、足腰がやけにしっかりしているので、ひょっとすると大吉が思うより若いのかもしれない。
(七十になっていなかったりして……)
呆けてしまった上にこうして出歩かれては、世話をする家の人はさぞ大変だろうと、大吉は同情する。
ほとんど会話はなく、早足で進む老女について行ったが、なかなか自宅には辿り着かない。
「おば……お母さん、ここはさっきも通りましたよ」
「あれ、おかしいねぇ。こっちだったかい」
弁当箱を渡された場所から迷わず進めば十五分で着きそうな道のりを、一時間ほどもかかって、老女はなんとか自宅に帰り着いた。
築四十年ほど経っていそうな平屋のこじんまりとした日本家屋で、刈り込まれていない生垣が細道にトゲトゲと枝を伸ばしている。
建物の横にある小庭も、松の木がうっそうと枝葉を伸ばし、下草も生い茂っていた。
そこに洗濯物干し場も見えるが、いつからあるのだろうと思うような干からびた着物が、ボロ布となって垂れ下がっている。