晴れ渡る空の下をどんよりとした気分で進み、古めかしい寺院の門前を通り過ぎれば、前方の曲がり角から人が出てくるのが見えた。
(あれ? あのお婆さん、確か学校を出たところでも見かけたよな……)
記憶に残されていたその老女は、七割が白髪の長い髪を適当に結わえただけのボサボサ頭である。
少し歩速を上げた大吉が五歩ほど後ろに追いつけば、皺くちゃな着物は季節外れの冬物で、草履は左右不揃いであるとわかった。
老女は道を真っすぐに進みつつ、脇道をキョロキョロと確認しており、「やれ困った。どこだろうねぇ」と独り言を繰り返している。
(もしかして迷っているのか? それとも誰かを探しているのか。それにしても、やけに小汚い身なりだな……)
気になった大吉は、後ろから声をかける。
「お婆さん、どうしたんですか?」
すると足を止めてパッと振り返った老女が、厳しい顔をして大吉に駆け寄った。
「あんた、そこにいたのかい。良かったよ。ほれ、弁当を忘れて行ったよ。お腹が空いたら勉強に身が入らんでしょう。しっかりしなさいよ」
「えっ!?」
老女は包んでもいない曲げわっぱの弁当箱を、驚く大吉に押し付ける。
どうやら親族の誰かと勘違いしているようだ。
風呂敷包みの上に無理やりのせられたため、弁当箱を落としそうになり、大吉は慌てて受け取ってしまった。
「お婆さん、この弁当、お孫さんに作ったんですか?」
困りながらそう問いかければ、老女が眉を寄せる。
「あんたの弁当だよ、正一郎。息子のために早起きして拵えるのは当たり前だよ。ああ、いいから。母親に礼なんて言わんでいい」
(お礼は言ってないし、今は午後二時も過ぎている。まさか、朝だと思っているのか……?)
話が噛み合わない上に、年齢を考えると、学生の息子がいるとも思えない。
これは呆けた老女が、昔を思い出して徘徊していたのだろうと、大吉は判断した。
(あれ? あのお婆さん、確か学校を出たところでも見かけたよな……)
記憶に残されていたその老女は、七割が白髪の長い髪を適当に結わえただけのボサボサ頭である。
少し歩速を上げた大吉が五歩ほど後ろに追いつけば、皺くちゃな着物は季節外れの冬物で、草履は左右不揃いであるとわかった。
老女は道を真っすぐに進みつつ、脇道をキョロキョロと確認しており、「やれ困った。どこだろうねぇ」と独り言を繰り返している。
(もしかして迷っているのか? それとも誰かを探しているのか。それにしても、やけに小汚い身なりだな……)
気になった大吉は、後ろから声をかける。
「お婆さん、どうしたんですか?」
すると足を止めてパッと振り返った老女が、厳しい顔をして大吉に駆け寄った。
「あんた、そこにいたのかい。良かったよ。ほれ、弁当を忘れて行ったよ。お腹が空いたら勉強に身が入らんでしょう。しっかりしなさいよ」
「えっ!?」
老女は包んでもいない曲げわっぱの弁当箱を、驚く大吉に押し付ける。
どうやら親族の誰かと勘違いしているようだ。
風呂敷包みの上に無理やりのせられたため、弁当箱を落としそうになり、大吉は慌てて受け取ってしまった。
「お婆さん、この弁当、お孫さんに作ったんですか?」
困りながらそう問いかければ、老女が眉を寄せる。
「あんたの弁当だよ、正一郎。息子のために早起きして拵えるのは当たり前だよ。ああ、いいから。母親に礼なんて言わんでいい」
(お礼は言ってないし、今は午後二時も過ぎている。まさか、朝だと思っているのか……?)
話が噛み合わない上に、年齢を考えると、学生の息子がいるとも思えない。
これは呆けた老女が、昔を思い出して徘徊していたのだろうと、大吉は判断した。