そして夫が家で食事をする回数が減ったことを嘆き、レストランの味を知るべく浪漫亭にやってきた妻の君枝。
疑問が疑問を呼び、大吉もなぜだろうと思い始めたら、「注文が入りました。お願いします」という声がした。
厨房に二枚の伝票を持って入ってきたのは、ホール係の三十代の女性従業員である。
彼女は着物の上に、肩口と裾にひだ飾りのついた白いエプロンを着ている。
カフェーの女給と同じような格好に、働き始めの頃の大吉は興奮して、鼻息を荒くしたものであった。
けれども当然のことながら、この店ではお色気も濃厚な接客もない。
ホール係の女性従業員は四人いるが、大吉の好みの範囲より年上ばかりだということもあって、今は平常心で見ていられる。
ディナー客の来店が始まったため、穂積は颯爽とした足取りでホールに戻っていき、コック達も注文の料理に取り掛かるべく、それぞれの持ち場に戻る。
これから三時間ほどは忙しくなると予想され、大吉に構っていられないのだ。
大吉の前にいるのは、左門だけになる。
「行くぞ」
指先で立つように指示された大吉は、「どこへですか?」と首を傾げる。
「中江正一郎の自宅だ。案内したまえ」
「ええっ!? 嫌ですよ。二度も殴られたくありません」
「謎は解き明かさねばならん。殴らせはしないから安心しなさい」
(本当に守ってくれるのか? 柘植さんは優しい人だと言っていたけど、僕には冷たいことの方が多いぞ。それに、危険を冒してまで解くべき謎なのか……)
思えば、坂田屋が火事になった際、大吉の宝物を救出してくれた理由も、それであった。
宝箱の中身がなんであるかを言わなかったせいで、疑問のままで終わらせたくないという知的探究心から、左門は火事場に飛び込んだのだ。
それは決して大吉を思いやってのことではなく、今も氷嚢を取り上げられて連れ出される。
疑問が疑問を呼び、大吉もなぜだろうと思い始めたら、「注文が入りました。お願いします」という声がした。
厨房に二枚の伝票を持って入ってきたのは、ホール係の三十代の女性従業員である。
彼女は着物の上に、肩口と裾にひだ飾りのついた白いエプロンを着ている。
カフェーの女給と同じような格好に、働き始めの頃の大吉は興奮して、鼻息を荒くしたものであった。
けれども当然のことながら、この店ではお色気も濃厚な接客もない。
ホール係の女性従業員は四人いるが、大吉の好みの範囲より年上ばかりだということもあって、今は平常心で見ていられる。
ディナー客の来店が始まったため、穂積は颯爽とした足取りでホールに戻っていき、コック達も注文の料理に取り掛かるべく、それぞれの持ち場に戻る。
これから三時間ほどは忙しくなると予想され、大吉に構っていられないのだ。
大吉の前にいるのは、左門だけになる。
「行くぞ」
指先で立つように指示された大吉は、「どこへですか?」と首を傾げる。
「中江正一郎の自宅だ。案内したまえ」
「ええっ!? 嫌ですよ。二度も殴られたくありません」
「謎は解き明かさねばならん。殴らせはしないから安心しなさい」
(本当に守ってくれるのか? 柘植さんは優しい人だと言っていたけど、僕には冷たいことの方が多いぞ。それに、危険を冒してまで解くべき謎なのか……)
思えば、坂田屋が火事になった際、大吉の宝物を救出してくれた理由も、それであった。
宝箱の中身がなんであるかを言わなかったせいで、疑問のままで終わらせたくないという知的探究心から、左門は火事場に飛び込んだのだ。
それは決して大吉を思いやってのことではなく、今も氷嚢を取り上げられて連れ出される。