けれども返ってきたのは、「妙だ」という疑問のみであった。
「なにが、おかしいと言うんですか」
「大吉を、不貞の相手とみなしたことについてだ。君はともすれば小学生に間違われる見た目をしている」
「なっ……」
「怒るな。馬鹿にしたのではなく、客観的事実を述べたまでだ。二十代後半の女性の相手としては若すぎると、ほとんどの者が思うことだろう。それがなにゆえ、間男だと勘違いしたのだろうか」
左門が淡々とした声で疑問を投げかけると、他の者達も考えだし、正一郎に対する非難の雰囲気が薄らいでしまった。
水を差された気分で面白くない大吉は、投げやりになる。
「そんなの知りませんよ。変わった人だからじゃないですか」
「変わり者のひと言で片づけるのを、私は好まない。どのような者であっても、その思考を紐解けば、必ずや納得する理由が見つかるはずだ。疑問のままで終わらせるのは、気分が悪い」
(理由探しより、一緒に怒ってくれないかな。左門さんも相当な変わり者だ……)
大吉があからさまに不満顔をしても、左門は気に留めてくれない。
顎に拳を添えてぶつぶつと独り言を口にし、謎を解き明かそうとしている。
「中江正一郎は、浪漫亭のコックには人妻に手を出す習慣があるのかと言ったそうだな。だとすれば、大吉のコック服が不貞を想像させた理由かもしれない。子供だと冷静に判断できないほどの怒り方から推察するに、彼自身か、あるいは近しい者が浪漫亭のコックに恨みを持っているのだろう。だが、私が知る限り、うちのコックにそのような問題はない。前経営者時代のことなのか……」
左門の呟きを側で聞いていた森山が、自分が浪漫亭で働いてきた二十一年間で、そのような不祥事はなかったと口を挟んでいる。
恨みがあるにも関わらず、足繁く浪漫亭に通ってまずそうにライスカレーばかりを食べる正一郎。