立襟のシャツにベストを着て、背広の上着やネクタイは無しという姿の左門は、彼にしては簡素な格好である。
左門がたまたま屋敷にいたのは幸か不幸か、そのせいで大吉は雇い主に殴られた顔を見られ、恥ずかしい気持ちになっていた。
「大吉、なにがあったのか詳細まで話しなさい」
左門は美々しい顔をしかめ、真正面から大吉に厳しい目を向けてくる。
大丈夫かと心配する言葉もなく問い詰める左門に、まるで信用されていないと感じた大吉はムッとした。
効果はないとわかっていながらも、せめてもの抗議の気持ちで睨んでみる。
森山と柘植と穂積、その他、手の空いているコック数人にも囲まれて、膨れ面の大吉は話しだす。
中江正一郎という、あの女性客の夫に間男だと勘違いされ、問答無用で殴られたことを。
詳細までと言われたので、どんな言葉を交わしたのかや、君枝から聞いた家族構成、正一郎の職業も説明する。
今やってきた左門は知らないと思い、君枝がライスカレーを食べながら泣きだしたことも聞かせた。
全てを話し終えた大吉は、口を尖らせて文句を言う。
「なんで僕が間男扱いされなくてはならないんですか。門前で少し話していただけで、敷居を跨いだわけじゃない。奥さんに触れてもいないのに、あの亭主、思い込みが激しすぎます」
「それは大変な目に遭ったね」と穂積や柘植は同情してくれて、森山は大吉以上に怒ってくれた。
「濡れ衣着せて手を上げるとは、なんて男だ。そんな奴は客じゃねぇ。今度浪漫亭に来たら、追い返してやる」
急に味方が増えた気分で、大吉のやり切れない不満は半分ほどに軽くなる。
心なしか頬の痛みも引いてきた気がした。
大吉を庇い立てする声で厨房は騒がしくなったが、左門だけは口を開かず腕組みをして、なにやら思案中だ。
「左門さんも、なにか言ってくださいよ」と大吉は同情を催促する。
左門がたまたま屋敷にいたのは幸か不幸か、そのせいで大吉は雇い主に殴られた顔を見られ、恥ずかしい気持ちになっていた。
「大吉、なにがあったのか詳細まで話しなさい」
左門は美々しい顔をしかめ、真正面から大吉に厳しい目を向けてくる。
大丈夫かと心配する言葉もなく問い詰める左門に、まるで信用されていないと感じた大吉はムッとした。
効果はないとわかっていながらも、せめてもの抗議の気持ちで睨んでみる。
森山と柘植と穂積、その他、手の空いているコック数人にも囲まれて、膨れ面の大吉は話しだす。
中江正一郎という、あの女性客の夫に間男だと勘違いされ、問答無用で殴られたことを。
詳細までと言われたので、どんな言葉を交わしたのかや、君枝から聞いた家族構成、正一郎の職業も説明する。
今やってきた左門は知らないと思い、君枝がライスカレーを食べながら泣きだしたことも聞かせた。
全てを話し終えた大吉は、口を尖らせて文句を言う。
「なんで僕が間男扱いされなくてはならないんですか。門前で少し話していただけで、敷居を跨いだわけじゃない。奥さんに触れてもいないのに、あの亭主、思い込みが激しすぎます」
「それは大変な目に遭ったね」と穂積や柘植は同情してくれて、森山は大吉以上に怒ってくれた。
「濡れ衣着せて手を上げるとは、なんて男だ。そんな奴は客じゃねぇ。今度浪漫亭に来たら、追い返してやる」
急に味方が増えた気分で、大吉のやり切れない不満は半分ほどに軽くなる。
心なしか頬の痛みも引いてきた気がした。
大吉を庇い立てする声で厨房は騒がしくなったが、左門だけは口を開かず腕組みをして、なにやら思案中だ。
「左門さんも、なにか言ってくださいよ」と大吉は同情を催促する。