柘植は相変わらずにこやかに微笑んでいるけれど、包丁を止めることはなく、答えもくれなかった。
「大吉君、これ以上は話せません」
「なぜですか?」
「左門さんが嫌がるからです。興味を持たせてすみませんが、諦めてください」
「はぁ、わかりました……」
不満げな声で渋々言うことを聞いた大吉は、皮むきを再開させつつ、柘植から得られた少ない情報を整理する。
柘植は大蔵家で按摩をしていたというので、きっとその前の宿屋での仕事も同じなのだろう。
宿屋が潰れて左門に拾われたのは、二十八の歳だと言っていたが……。
(あれ? おかしいぞ)
大吉は算盤(そろばん)を思い浮かべて、計算する。
柘植は五十二歳なので、二十四年前の話になる。
路頭に迷っていた柘植を雇い入れたということは、その頃の左門は親に意見できる年齢でなければならないはずだ。
左門の若々しい見た目から、二十代後半だと勝手に思っていた大吉だが、それだと柘植を拾った年齢は幼児になってしまう。
再び皮むきの手を止めた大吉が、「あの」と怖々、隣に話しかける。
「なんでしょうか」
「左門さんは、一体いくつなんですか……?」
返事がないのはどういうことだろう。
「柘植さ――」
「大吉君、手が止まっているのではありませんか? お喋りはやめにして働きましょう。この後は蒸して潰して成形しなくてはなりません。早くしないとディナー時間に入ってしまいますよ」
どうやら左門に関しては、年齢も聞いてはいけないようだ。
なぜだと疑問を深める大吉であったが、そこからは仕方なく、意識をじゃがいもと英単語に戻す。
「ミスアンダースタンディングは誤解で、許すは……また忘れてしまった」
覚えの悪さを悲嘆しつつ、年齢を尋ねるくらい許してほしいと思っていた。
やっと皮むきを終えた大吉は、休む間もなく次の仕事を指示される。