大吉が左門に雇われた日から、半月ほどが経つ。
眩しい朝日が降り注ぐ左門の屋敷は、浪漫亭の裏にある。
この辺りでは珍しい白塗りの外壁に、洋瓦の屋根の平屋で、全室が洋間となっている。
この建物も左門が浪漫亭を買収した三年前に、一緒に買い取ったのだと聞いた。
その庭は樫や楓に囲まれ、整備された花壇には大吉が初めて目にしたチューリップの花が咲いている。
赤煉瓦が丸く敷かれた一角には、鉄製の洒落たテーブルセットが置かれ、庭でお茶を飲むことができるようになっていた。
その片隅で大吉は、詰襟のシャツや麻の葉柄の寝間着など洗濯物数点を、慎重に物干し竿にかけている。
(言われた通り、できるだけ皺を伸ばして干したぞ。これでやっと洗濯が終わった。朝飯を食べて、早く学校へ行く支度をしないと)
首にかけた手拭いで額の汗を拭き、腰を屈めて芝生の上のタライに手を伸ばす。
するとタライに、ベッド用の敷布が放り込まれた。
「これも洗ってくれ」と言ったのは左門で、皺ひとつない詰襟の白シャツに、ネクタイとベスト。今日の彼も華麗に洋服を着こなしている。
左門を見上げた大吉は、眉を寄せて文句を言う。
「洗濯が終わってから、持ってこないでくださいよ」
無料で従業員宿舎に住まわせてもらう当初の条件としては、浪漫亭での労働しか聞いていなかった。