そこまで図々しくはないつもりだが、左門の方から聞いてくれるのならばと、遠慮を忘れることにした。
「それ、僕にくれませんか? まだ腹は満たされていません。お代わりください」
叱られるか、呆れられるかと覚悟をしていたけれど、意外にも左門は目を細めて笑ってくれた。
「図々しさも度を越せば、清々しく感じられるものなのだな。覚えておこう」
そのようなおかしな学びを得た左門は、ナイフとフォークを置いて、手つかずのオムレツライスを大吉にくれた。
「やった、ありがとうございます!」
言ってみるものだと喜ぶ大吉は、ふた皿目も実に旨そうに夢中で頬張る。
ドア側の壁には一本脚の洒落た補助テーブルが置かれていて、そこに銀の水差しとグラスが八つ置かれていた。
氷水が入れられているらしく、水差しの表面は白く細かな水滴で覆われている。
左門は立ち上がってコップひとつに水を注ぐと、大吉の前に置いてくれた。
「んんーんんん」
お礼を言ったつもりだが、口内にオムレツライスを詰め込んでいるため、伝わったかどうかはわからない。
左門は元の席ではなく、大吉の正面の椅子に座り、長い足を組む。
腕組みをして真顔でじっと見据えてくる左門に、大吉は食べ難さを感じたが、スプーンを止めることなく完食し、注いでもらった水を飲みほした。
「はぁー、美味しかった。満足です」
膨れた胃のあたりを片手でさすり、幸せ顔をして天井に息を吐いた大吉に、左門は静かな口調で提案する。
「住む場所がないのなら、君が卒業するまで従業員宿舎の一室を無料で貸そう。その代わり、学業に当てる以外の時間を浪漫亭で働いてもらう。厨房の調理補助と、慣れてから接客もしてもらおうか。働きに応じて給与も出す。どうだ?」
それは大吉にとって、願ってもない申し出である。
目玉が飛び出しそうなほどに驚き、「本当ですか?」と上擦る声で確認した。