左門のような紳士は、そのような場所が相応しく、庶民の商店街や揚げかまぼこサンドは似合わない。
意外に思う大吉は、興味本位で聞いてみる。
「今日も商店街を歩いていたということは、買い物ですか? なにを買ったんですか?」
それに返事はなかった。
顎に手を添えた左門は、紅茶の水面に視線を止め、独り言のように大吉の話を総括する。
「和風オムレツに潮汁のカレー、揚げかまぼこサンドか。発想力の豊かな少年だ。その裏には洋食への渇望と、食材不足の台所事情があったというわけだな」
「発想力……そうです。今の僕は金も食材もありませんが、アイディアがあります」
大吉は、おだてに弱いところがある。
褒められたことで調子に乗り、揚げかまぼこサンドの補足をした。
「マヨネーズに、からしやわさびを混ぜても良いかと思います。大人向けになるでしょう。そのうち坂田屋の大将に提案してみようと思っていました」
「それも、うまそうだ」
左門が大きく頷いたのを見て、大吉は認められた気分で嬉しくなる。
けれども有頂天とまでいかないのは、さっきからチラチラとオムレツライスを気にしているせいだ。
(食べないようだな。それなら、僕がもらっても……)
今は腹五分といった具合である。
もうひと皿を食べるのは容易く、時間をかければ、あと二、三皿いけそうな気もしている。
お代わりできることを期待して大吉が皿を指差そうとしたら……左門が銀のナイフとフォークに手をかけた。
どうやら話が一段落してから食べるつもりであったようだ。
ナイフが卵に触れそうなのを見て、大吉は思わず、「あっ」と声を上げる。
「どうした?」
「いえ、ええと、その……」
「これまで無遠慮であった君が言い淀むと、気味が悪い。はっきり言いなさい」
いくら食い意地の張った大吉でも、食べようとしている相手の分まで欲しがるのは、さすがに気が引ける。