一食分にも満たなくて、大吉は海老や貝、イカなどを炒めて和風出汁で煮込み、そこに足りないカレー粉を溶いた。
カレー風味の潮汁といった料理では、ライスカレーを食べた気分にはなれなかった。
コロッケやトンカツなども、同じように代用品で拵え、これは違うと洋食への憧れを募らせてきたのであった。
そのような話をしつつ、大吉の視線はずっと左門の目の前にある銀縁の皿に向けられている。
左門のオムレツライスは、まだ手つかずのままであった。
(食べないのだろうか? それとも猫舌で、冷めるのを待っているのか。いや、熱い紅茶は普通に飲んでいるのだから、それは違うな)
左門は薄切りのレモンを紅茶に入れ、味わうようにゆっくりと飲んでいる。
紅茶碗を持ち、口に含んで喉に流すという当たり前の動作は、左門がすると優雅に感じられる。
それを見て大吉は、自分の分を一気に飲み干してしまったことを悔いた。
(紳士たる者、悠然に構えて落ち着いた態度を取るべきなのだな。僕も見習おう。これも将来のための勉強だ)
紅茶碗を置いた左門は、「それから?」と問いかけた。
大吉としては、洋食まがいの料理の話を終えたつもりでいたのだが、続きを待たれていたようだ。
それで今度は、坂田屋の“揚げかまぼこサンド”の話をする。
コッペパンに千切りキャベツと魚のすり身揚げを挟んでマヨネーズをかけた人気商品、あれを考案したのが大吉だと知った左門は、眉を上げた。
「私も一昨日、買って食べた。いささか世俗的ではあるが、すり身揚げとマヨネーズ、キャベツの組み合わせは調和が取れていた」
「へぇ、左門さんも食べたんですか。金持ちも、庶民の商店街で食事をするのですね」
十字街の顔として建つ百貨店は、丸屋根のドームを持った三階建て鉄筋コンクリート製のモダンな洋館である。
カレー風味の潮汁といった料理では、ライスカレーを食べた気分にはなれなかった。
コロッケやトンカツなども、同じように代用品で拵え、これは違うと洋食への憧れを募らせてきたのであった。
そのような話をしつつ、大吉の視線はずっと左門の目の前にある銀縁の皿に向けられている。
左門のオムレツライスは、まだ手つかずのままであった。
(食べないのだろうか? それとも猫舌で、冷めるのを待っているのか。いや、熱い紅茶は普通に飲んでいるのだから、それは違うな)
左門は薄切りのレモンを紅茶に入れ、味わうようにゆっくりと飲んでいる。
紅茶碗を持ち、口に含んで喉に流すという当たり前の動作は、左門がすると優雅に感じられる。
それを見て大吉は、自分の分を一気に飲み干してしまったことを悔いた。
(紳士たる者、悠然に構えて落ち着いた態度を取るべきなのだな。僕も見習おう。これも将来のための勉強だ)
紅茶碗を置いた左門は、「それから?」と問いかけた。
大吉としては、洋食まがいの料理の話を終えたつもりでいたのだが、続きを待たれていたようだ。
それで今度は、坂田屋の“揚げかまぼこサンド”の話をする。
コッペパンに千切りキャベツと魚のすり身揚げを挟んでマヨネーズをかけた人気商品、あれを考案したのが大吉だと知った左門は、眉を上げた。
「私も一昨日、買って食べた。いささか世俗的ではあるが、すり身揚げとマヨネーズ、キャベツの組み合わせは調和が取れていた」
「へぇ、左門さんも食べたんですか。金持ちも、庶民の商店街で食事をするのですね」
十字街の顔として建つ百貨店は、丸屋根のドームを持った三階建て鉄筋コンクリート製のモダンな洋館である。