級友ふたりは足を止め、すれ違った少女を目で追って鼻の下を伸ばしているが、大吉だけは少しも心を動かされない。
なぜなら、その女学生が好みとは違っていたからだ。
少女の姿が道の角を曲がって見えなくなると、大吉はフンと鼻を鳴らした。
「まだ十四、五の子供じゃないか。色気が足りない。あんな娘っ子に惹かれるとは、君らはまだまだ青いな」
腰に手を当てた大吉は、優勢に立ったつもりで胸を張る。
けれども顔を見合わせた級友ふたりが同時に吹き出し、肩を揺すった。
「僕らより三寸も背丈が低い大吉が、なにを偉そうに」
「学校一の童顔でもあるな。大吉が子供扱いして良いのは、小学生以下だろう」
頭ひとつ分小柄で華奢な大吉を、両脇に立つ幸治と清がからかう。
肩を叩かれ頭を撫でられて、愉快そうに大笑いされては、大吉の頬が膨らむ。
学生服を着ていなければ、小学生にも間違われそうな大吉なので、それをいたく気にしていた。
だからこそ、悔しくて堪らない。
(僕は確かに小柄だけど、これから伸びるはずだ。いつかふたりを追い抜いて、頭上から笑ってやるからな)
反論は心の中だけに留めて、ムッとしたまま先立って歩き出した大吉だが、ふと思い直して足を止めた。
あどけなさの残る唇の端をニッと吊り上げ、級友たちに振り向くと、形勢逆転とばかりに強気に言い放つ。
「これを見ても、まだ僕をからかえるのか? 昨日入手したばかりの新しいコレクションだぞ」
英国人のような巻舌で“コレクション”とかっこつけて発音した大吉は、学生服のポケットからそれを取り出して印籠のように見せつける。
期待通りに級友たちは目を見張り、「いいな」「もっと良く見せてくれ」と食いついてきた。
大吉が手のひらにのせて前後を返しながら見せびらかしているのは、“カフェー”のマッチ箱である。