それでも岸壁の縁、ギリギリから、力の限りに左門の名を繰り返し叫んだ。
すると、甲板の後方に、誰かが出てきた。
珈琲色のコートに、同色の山高帽を被った左門である。
ハッとした大吉は、両手を口の横に添え、大声で悔しさと決意をぶつける。
「僕は諦めません! 卒業したら東京へ行きます。どこまでも追いかけて行きますからねー!」
船は拳大ほどに遠ざかってしまったので、おそらく大吉の声は届かなかったであろう。
左門の表情も見えず、向こうが大吉に気付いているのかもわからない。
と思ったら、左門が帽子を脱いで高く持ち上げ、被り直した。
どうやらそれが別れの挨拶のようだ。
(さよならなんて、言うもんか……)
唇を噛み締めた大吉の目に、悲しみの涙がじわりと滲んだ。
左門との突然の別れから半月ほどが経ち、鏡開きも済んだ頃。
大吉は冬曇りの空のような心持ちで厨房にいる。
正月は実家にも帰らず、左門に認められる大人になろうと、睡眠時間を削って勉強に励んだ。
それが数日続くと反動で元気をなくし、なにも手につかない二、三日を過ごしたら、これでは駄目だと前を向く。
その繰り返しの日々で、今日は気落ち気味である。
調理台でじゃがいもの下拵えをしている大吉は、小さなため息をついた。
(左門さんに手紙を書こうか。でもな、寂しがる子供みたいだと思われそうだ。それでも返事がくればいいけど、どうでもいいと無視されたらしんどいぞ。それなら電話は? 忙しくて出てくれないかもな。それもまた落ち込みそうだ)
時刻は十八時になろうとしているところで、厨房は活気づいている。
森山はコック達に指示を出しつつ、ポークカツレツを揚げていた。
その視線が大吉を捉えると、ぎょっとして怒りだす。
「フライドポテト用に切れっていたのに、お前はなにやってんだ!」
「へ? あ……」
すると、甲板の後方に、誰かが出てきた。
珈琲色のコートに、同色の山高帽を被った左門である。
ハッとした大吉は、両手を口の横に添え、大声で悔しさと決意をぶつける。
「僕は諦めません! 卒業したら東京へ行きます。どこまでも追いかけて行きますからねー!」
船は拳大ほどに遠ざかってしまったので、おそらく大吉の声は届かなかったであろう。
左門の表情も見えず、向こうが大吉に気付いているのかもわからない。
と思ったら、左門が帽子を脱いで高く持ち上げ、被り直した。
どうやらそれが別れの挨拶のようだ。
(さよならなんて、言うもんか……)
唇を噛み締めた大吉の目に、悲しみの涙がじわりと滲んだ。
左門との突然の別れから半月ほどが経ち、鏡開きも済んだ頃。
大吉は冬曇りの空のような心持ちで厨房にいる。
正月は実家にも帰らず、左門に認められる大人になろうと、睡眠時間を削って勉強に励んだ。
それが数日続くと反動で元気をなくし、なにも手につかない二、三日を過ごしたら、これでは駄目だと前を向く。
その繰り返しの日々で、今日は気落ち気味である。
調理台でじゃがいもの下拵えをしている大吉は、小さなため息をついた。
(左門さんに手紙を書こうか。でもな、寂しがる子供みたいだと思われそうだ。それでも返事がくればいいけど、どうでもいいと無視されたらしんどいぞ。それなら電話は? 忙しくて出てくれないかもな。それもまた落ち込みそうだ)
時刻は十八時になろうとしているところで、厨房は活気づいている。
森山はコック達に指示を出しつつ、ポークカツレツを揚げていた。
その視線が大吉を捉えると、ぎょっとして怒りだす。
「フライドポテト用に切れっていたのに、お前はなにやってんだ!」
「へ? あ……」