十字街から元町までは、徒歩で十分とかからず行くことができるので、自動車だとあっという間である。
もう少し高級車の乗り心地を堪能したかったのだが、先に見えてきた洋館へと折れて、建物前の駐車場でエンジンは切られた。
「降りなさい」と言われ、ドアを開けて砂利の地面を踏んだ大吉は、洋館を見上げる。
横長の二階建てで、普通の民家の四軒分の間口がありそうな大邸宅だ。
外壁は明るい鶯色。三角屋根は鉄板葺きのようである。
アーチ型の窓は枠が白く塗られ、等間隔に並んでいた。
玄関扉も白く、両脇にはランプ型の電灯が明るく輝き、その上に横看板がかけられている。
看板に気づいた大吉は、近づいて黒ペンキで書かれた文字を読んだ。
「浪漫亭……あ、洋食レストランですか」
元町には有名な洋食レストランがあると、話だけは聞いたことがあった。
行ってみたいと強く思ったものの、高校を卒業して就職するまでは無理だと判断し、レストランのことはあまり考えないようにしていた。
学校近くには学生向けの安い飲食店があるのだが、級友たちがカステラをうまそうに食べている中で、大吉は豆菓子と牛乳を口にする程度の懐事情である。
目の前の建物は、今の大吉にとって、敷居の高い夢の世界であった。
明るい光の漏れる窓辺に寄り、ピョンと飛び上がって中を覗けば、一瞬だけ見えたのは洋装の品の良い中年の男女が向かい合って食事をしている姿である。
銀のナイフとフォークを手にしていたが、なにを食べていたのかまではわからない。
(トンカツだろうか。それともビフテキ?)
大吉の口の中に唾が込み上げてくる。
気になってもう一度飛び上がろうとしたら、後ろから肩を押さえつけられた。
「やめたまえ。私の客に失礼であろう」
青年に迷惑顔をされても、大吉は気にしない。
というより、“私の客”という発言に、期待を膨らませていた。
もう少し高級車の乗り心地を堪能したかったのだが、先に見えてきた洋館へと折れて、建物前の駐車場でエンジンは切られた。
「降りなさい」と言われ、ドアを開けて砂利の地面を踏んだ大吉は、洋館を見上げる。
横長の二階建てで、普通の民家の四軒分の間口がありそうな大邸宅だ。
外壁は明るい鶯色。三角屋根は鉄板葺きのようである。
アーチ型の窓は枠が白く塗られ、等間隔に並んでいた。
玄関扉も白く、両脇にはランプ型の電灯が明るく輝き、その上に横看板がかけられている。
看板に気づいた大吉は、近づいて黒ペンキで書かれた文字を読んだ。
「浪漫亭……あ、洋食レストランですか」
元町には有名な洋食レストランがあると、話だけは聞いたことがあった。
行ってみたいと強く思ったものの、高校を卒業して就職するまでは無理だと判断し、レストランのことはあまり考えないようにしていた。
学校近くには学生向けの安い飲食店があるのだが、級友たちがカステラをうまそうに食べている中で、大吉は豆菓子と牛乳を口にする程度の懐事情である。
目の前の建物は、今の大吉にとって、敷居の高い夢の世界であった。
明るい光の漏れる窓辺に寄り、ピョンと飛び上がって中を覗けば、一瞬だけ見えたのは洋装の品の良い中年の男女が向かい合って食事をしている姿である。
銀のナイフとフォークを手にしていたが、なにを食べていたのかまではわからない。
(トンカツだろうか。それともビフテキ?)
大吉の口の中に唾が込み上げてくる。
気になってもう一度飛び上がろうとしたら、後ろから肩を押さえつけられた。
「やめたまえ。私の客に失礼であろう」
青年に迷惑顔をされても、大吉は気にしない。
というより、“私の客”という発言に、期待を膨らませていた。