清に問われた大吉は、集団職場見学の申し込みはしないと即答した。
「僕は左門さんの会社に入りたい。詳しく教えてくれないけど、海運、金融、食品輸入など幅広く手掛けているそうだ。それらのどこでもいい。とにかく左門さんの下で働くんだ」
生き生きとした目できっぱりと言い切れば、幸治が羨ましそうな顔をする。
「内定済みか。いいよな」
「違うよ。希望は伝えているけど、いいと言ってくれない。でも僕は諦めない。いずれ左門さんの右腕と呼ばれる男になってみせる。絶対に離れないぞ」
清と幸治が顔を見合わせて、ニヤリとした。
「愛だな」と、ふたりにからかわれたが、マントの下で拳を握りしめ、闘志を燃やしている大吉は聞いていない。
(卒業までに、必ず許可を取りつける。左門さんが帰ってきたら、今夜も就職をお願いしてみよう)
それから三人は、それぞれの家の方面へと手を振り別れた。
大吉は冬になってもバスを使わず、三十分の道のりを歩いて帰る。
坂道に差し掛かると、賛美歌が微かに聞こえてきた。
浪漫亭よりもっと坂の上にある、鶯色の屋根と白亜の壁の教会に目を遣った。
(そうか、今日は二十五日。クリスマスだ)
教会ではクリスマスミサというものが開かれ、信者が集まるのだと聞いたことがある。
大吉の実家は、地元の寺の檀家なので、クリスマスとは無縁の子供時代を送ってきた。
他の家も同じようなものだと思われるが、最近では新聞広告に、“クリスマスプレゼント”の文字をよく目にするようになった。
菓子や玩具、文具などの会社の広告だ。
(誰か僕にプレゼントをくれないか。鉛筆よりキャラメル、いやミルクチョコレートがいいな……)
板状のチョコレートを均等に分けるのは難しい。
少しの大きさの違いで、兄弟で取っ組み合いの喧嘩をしたことを懐かしく思い返していたら、黒光りする自動車が一台、下ってきた。