校長に対する印象が変わってしまったことよりも、本の中身が気になって仕方ない。
彼らは年が明けたら、数えで十八になる。
このような読み物に興味を持つのは、ある意味、健全な証拠であろう。
「まずはこれからいくぞ」
唾をのんだ大吉が、女体解剖図鑑という薄い本を開こうとしたら……廊下に足音が聞こえた。
肩をびくつかせて驚いた三人は、出した書物をしまい、床板をはめ直す。
それからバタバタと掃除の続きに戻ると、ノックもなくドアが開けられて、校長が入ってきた。
「おお、綺麗になったな。ご苦労だった。大掃除はこれくらいで良いだろう。終わった者から下校しているぞ。諸君も……ん、どうした?」
緊張が顔に表れてしまったのか、不思議そうな目を向けられる。
焦る大吉は腰を直角に折り曲げ、頭を下げた。
「では僕達はこれで失礼します。校長先生、良い新年をお迎えください」
「君達もな。正月休みに浮かれず、勉強もするんだぞ。来年は最終学年だ。就職先を考え始めなさい」
「はい。わかりました」
三人はドア前に整列し、学帽を取って一礼すると、逃げるように校長室を出る。
教室に寄ってズック鞄と黒いマントを手に取り、走って校門を出た。
「危機一髪とはこのことだな」
マントを羽織りながら大吉が言えば、ふたりが頷く。
その後は三人同時に吹き出して、「えらい秘密を知ってしまった」と笑い話になる。
ひとしきり笑った後は、歩きながら来年の話をする。
「年明けの集団職場見学、どこに申し込む? 僕は新聞社を考えている」
幸治の言葉に、清が「へぇ」と驚いた顔をした。
「新聞記者になりたかったのか。意外だな。幸治のことだから、自動車関係かと思っていた」
「もちろん第一志望はそれさ。普段から自動車を見に販売店に通っているから、見学に行くまでもない。新聞社は、ほんの興味本位だ」
「そうか。僕はまだ決めていないんだ。大吉はどうする?」