ホールに出た大吉は、中央よりやや奥側の四人掛けの席に、左門達の姿を見つけた。
今日は二階の特別室ではなく、一階で他の客に交ざって食事をするようである。
斜向かいに座るふたりに近づき、「お待たせしました」と料理を並べていく。
弥勒の前には大根おろしをのせたハンバーグステーキの皿と、別皿に平べったく盛ったご飯、それと和風ソースを置いた。
ナイフとフォークではなく、箸を出す。
左門の前には、通常メニューのハンバーグステーキとパンの皿、二種類のソースである。
大吉が下がろうとしたら、「そこにいなさい」と左門に命じられた。
なぜかと思いつつも、テーブルの横に立ち、弥勒が箸を手に取る様子を見守った。
「大葉と大根おろしがのっかっとる。気い使ってくれはったんやな。このソースをかければええんか」
和風ソースをかけた弥勒は、箸で切り分けて口にする。
そして「おっ」と声を上げた。
「醤油に柚子の香り。日本料理になっとるわ。これはうまい。毎日でも食べられそうや」
ご飯と交互にパクパクと食べる弥勒を、左門は見ているだけで、自分の皿に手をつける様子はない。
(前にもこんなことがあったぞ。清と文子さんが浪漫亭に来た時だ)
給仕役の大吉はひとりだけ食べられずに不満を覚えたが、左門は手をつけず、最後には自分の分を食べて良いと言ってくれたのだ。
今回もそれを期待しかけたが、残念ながら違うようだ。
弥勒が半分食べたところで待ったをかけた左門は、手付かずのハンバーグステーキと弥勒の皿を取り替えた。
「なんでっしゃろ?」
弥勒は首を傾げ、大吉は自分の分ではなかったことを残念がる。
左門はハンバーグステーキをナイフで半分に切り分けると、片側にのみソースをかけた。
それは大吉が疑問に思ったソースで、見た目はブラウンソースに似ているが正体不明のものである。
「ひと口、食べてみたまえ」