かなり歳上であっても、見た目は若く艶っぽい美女である。
固まる大吉の鼓動は爆音を奏で、興奮から鼻息が荒くなった。
(弥勒さんの代わりに僕が、監視付きで飼われたいかも……)
「審査員にもこうして、息を吹きかけてみようかしら。左門を呼び戻すために」
小夜子がいたずらめかした口調で言い、大吉はのぼせながらも、それはどういう意味かと考えていた。
左門はさらに不愉快そうだ。
「脅しても無駄です。気まぐれで拾ったに過ぎない画家の未来と、自分の生き方を天秤にかけるほど、私はお人好しではない」
「いいえ、左門は優しい子。一族の中で誰よりも。潔癖なあなたは、動物に触るのが嫌なくせに、よく犬猫を拾ってきたわよね。しまいには盲目の按摩師まで拾ってきて、あの時には呆れたわ」
それは柘植のことであろう。
大吉は、いつも優しく親切な柘植を慕っている。
犬猫と同列に並べて批判されては、ムッとするところだ。
一歩足を引いて、肩の上の手を落としたが、小夜子は大吉の気持ちなどどうでも良さそうだ。
ゆっくりと左門の方へ戻りつつ、微笑して話し続ける。
「学生の頃は、私費を投じて孤児院を設立したわよね。お父様に内緒でコソコソと。無償の優しさを、愚かと呼ぶ。お父様にそのように叱られても、あなたは――」
「昔話はもうよい。小夜子さん、帰ってください。私はこれから仕事に戻らねばならない」
左門は、しかめ面を通り越して、睨むように姉を見ていた。
そのようなはっきりとした怒り顔を、大吉は初めて見た気がする。
いつも冷静沈着で何事にも動じない左門なのに、姉の言葉に我慢できず、心を乱してしまったようだ。
(無償の優しさは、愚かなのか。そういえば僕が左門さんを優しいと言ったら、不機嫌になって、実業家に優しい者はいないと言われたな。父親に叱られたことがあったから、優しいと言われるのが嫌なのかな……)