「九条院小夜子。左門の姉よ」
「お姉さん!?」
左門に姉がいたのかと、驚いたわけではない。
左門はやたら若く見えるが、二十代ではないと思われる。
三十代前半か、もしかするともっと上かもしれない。
その姉も、年齢を推測するのが難しい容姿だ。
肌艶が良く、どう見ても嫁入り前のような若さなのに、四十路近い可能性がある。
(左門さんの一族は、どうなっているんだ。不老不死の秘薬でも飲んでいるんじゃないだろうか……)
驚きを抱えたまま、大吉は左門を呼びに行こうと玄関に背を向けた。
すると廊下の奥から足音が聞こえ、声をかける前に左門が出てくる。
姉を見た左門は、眉間に皺を寄せた。
「お久しぶりね。あなたったら、ちっとも東京へ戻らないんですもの。会いたくなって来てあげたのよ。もっと嬉しそうな顔をしてちょうだい」
「ご冗談を。小夜子さんは、そのような感情で動く人ではない。それで用件は?」
「可愛げのない弟ね。まずは中へ入らせてもらうわ。座って話しましょう」
弟に歓迎されずとも、小夜子は少しも動じず、堂々とした笑みを浮かべている。
下足のままで玄関から廊下へと踏み出し、左門の脇を抜けて先に行ってしまった。
後を追う左門は、なにも言わない。
この屋敷は洋館であっても、土足禁止である。
潔癖なところがある左門なので、裸足も許さず、中ヘ入るには室内履きが必要なのだが、姉に注意しないのはどういうわけか。
(ひょっとして、お姉さんが苦手? 怒るとものすごく怖いのか? 左門さんが恐れるほどの人って……)
左門に紅茶を頼まれた大吉は、台所でお湯を沸かす。
小夜子が怖そうなので、いつもより慎重に紅茶を淹れる。
淹れ方は以前、左門に教わり、書斎で仕事中の左門に何度か出したことがあった。
お盆に紅茶碗ふたり分と、角砂糖の入った小瓶、ミルク壺をのせる。
「お姉さん!?」
左門に姉がいたのかと、驚いたわけではない。
左門はやたら若く見えるが、二十代ではないと思われる。
三十代前半か、もしかするともっと上かもしれない。
その姉も、年齢を推測するのが難しい容姿だ。
肌艶が良く、どう見ても嫁入り前のような若さなのに、四十路近い可能性がある。
(左門さんの一族は、どうなっているんだ。不老不死の秘薬でも飲んでいるんじゃないだろうか……)
驚きを抱えたまま、大吉は左門を呼びに行こうと玄関に背を向けた。
すると廊下の奥から足音が聞こえ、声をかける前に左門が出てくる。
姉を見た左門は、眉間に皺を寄せた。
「お久しぶりね。あなたったら、ちっとも東京へ戻らないんですもの。会いたくなって来てあげたのよ。もっと嬉しそうな顔をしてちょうだい」
「ご冗談を。小夜子さんは、そのような感情で動く人ではない。それで用件は?」
「可愛げのない弟ね。まずは中へ入らせてもらうわ。座って話しましょう」
弟に歓迎されずとも、小夜子は少しも動じず、堂々とした笑みを浮かべている。
下足のままで玄関から廊下へと踏み出し、左門の脇を抜けて先に行ってしまった。
後を追う左門は、なにも言わない。
この屋敷は洋館であっても、土足禁止である。
潔癖なところがある左門なので、裸足も許さず、中ヘ入るには室内履きが必要なのだが、姉に注意しないのはどういうわけか。
(ひょっとして、お姉さんが苦手? 怒るとものすごく怖いのか? 左門さんが恐れるほどの人って……)
左門に紅茶を頼まれた大吉は、台所でお湯を沸かす。
小夜子が怖そうなので、いつもより慎重に紅茶を淹れる。
淹れ方は以前、左門に教わり、書斎で仕事中の左門に何度か出したことがあった。
お盆に紅茶碗ふたり分と、角砂糖の入った小瓶、ミルク壺をのせる。