「い、嫌やなぁ。大層な理由なんてあらへん。へいへい、さっそく直しましょ。社長はんは厳しいお人やなぁ」
「弥勒、私の目を見て話せ」
左門が弥勒の肩を掴んだその時、玄関からコンコンという音が響いた。
この屋敷の玄関ドアには、真鍮のドアノッカーと呼ばれるものがついており、来訪者はそれを打ち鳴らすことで訪問を知らせる。
振り向いた左門が大吉に、対応に出るよう指示した。
「はい、わかりました」
大吉は玄関へ急ぎながら、郵便配達人が小包か電報でも持ってきたのだろうと予想する。
けれどもドアを開ければ、そこに立っていたのは、ひとりの美女。
年齢は二十代半ばくらいであろうか、切れ長の二重の瞳は色素が薄く、白い肌に西洋人のように高い鼻と形の整った唇。
艶のある黒髪は耳下までの長さに大胆に切られ、釣鐘型の洒落た帽子を被っている。
仕立ての良い秋物コートの裾からは、薄紫色のスカートが覗いていた。
真珠の首飾りをつけ、瞼や頬、唇には色味のある化粧が施されて華やかである。
手に持つのは、金の鎖をあしらった小さめの手提げ鞄で、斬新なデザインだ。
昨今、雑誌などでもてはやされているモダンガール、いわゆる“モガ”というハイカラな女性のようだが、もっと洗練された気品を纏っているようにも感じられた。
背丈は女性にしてはかなり高く、小柄な大吉は見上げてしまう。
(色っぽいお姉さんだな。いや、そんな俗っぽい言い方は失礼か。貴族のお嬢様のような雰囲気がある。こんな女性は始めてだ……)
鼓動を弾ませた大吉が、半開きの口で見惚れていたら、微笑した美女が品の良い声を聞かせる。
「あなたは留守居役の学生? 左門はいないのかしら。行き先を知っているなら、教えてちょうだい」
ハッと我に返った大吉は、緊張しつつ受け答えをする。
「左門さんはいます。今、呼んできますので少々お待ちください。ところで、お名前は?」
「弥勒、私の目を見て話せ」
左門が弥勒の肩を掴んだその時、玄関からコンコンという音が響いた。
この屋敷の玄関ドアには、真鍮のドアノッカーと呼ばれるものがついており、来訪者はそれを打ち鳴らすことで訪問を知らせる。
振り向いた左門が大吉に、対応に出るよう指示した。
「はい、わかりました」
大吉は玄関へ急ぎながら、郵便配達人が小包か電報でも持ってきたのだろうと予想する。
けれどもドアを開ければ、そこに立っていたのは、ひとりの美女。
年齢は二十代半ばくらいであろうか、切れ長の二重の瞳は色素が薄く、白い肌に西洋人のように高い鼻と形の整った唇。
艶のある黒髪は耳下までの長さに大胆に切られ、釣鐘型の洒落た帽子を被っている。
仕立ての良い秋物コートの裾からは、薄紫色のスカートが覗いていた。
真珠の首飾りをつけ、瞼や頬、唇には色味のある化粧が施されて華やかである。
手に持つのは、金の鎖をあしらった小さめの手提げ鞄で、斬新なデザインだ。
昨今、雑誌などでもてはやされているモダンガール、いわゆる“モガ”というハイカラな女性のようだが、もっと洗練された気品を纏っているようにも感じられた。
背丈は女性にしてはかなり高く、小柄な大吉は見上げてしまう。
(色っぽいお姉さんだな。いや、そんな俗っぽい言い方は失礼か。貴族のお嬢様のような雰囲気がある。こんな女性は始めてだ……)
鼓動を弾ませた大吉が、半開きの口で見惚れていたら、微笑した美女が品の良い声を聞かせる。
「あなたは留守居役の学生? 左門はいないのかしら。行き先を知っているなら、教えてちょうだい」
ハッと我に返った大吉は、緊張しつつ受け答えをする。
「左門さんはいます。今、呼んできますので少々お待ちください。ところで、お名前は?」