早口で冷淡に諭した青年は、「さらばだ」と大吉の手を振り払い、足早に去ろうとする。
拒絶されても大吉は、頼みの綱を切らすまいとして必死に追いかけた。
「待ってください。二、三日……いや、ひと晩だけでもいいですから!」
後ろについてくる下駄の音を振り切ろうとしてか、青年はさらに歩速を上げる。
足の長い彼なので、小柄な大吉は自然と駆け足になる。
庶民の住宅地を抜けてしばらく進むと、十字街に出た。
ここは路面電車のレールが敷かれ、鉄筋コンクリート製の百貨店や銀行、大商人の洋館風社屋に映画館など、大きな建物が目立つ大通りだ。
ガス灯はもう古く、この通り沿いに等間隔に立つ外灯は全て電灯である。
電灯の黄色い光や窓辺の明かりが夜道を照らしてくれるので、行き交う人の顔がはっきり見えるほど視界に不自由はない。
「僕を見捨てないでください。あなたしかいないんです。なんでも奉仕しますから、今夜は側に置いてください!」
青年に無視されようとも、大吉は諦めずに後ろから声をかけ続けた。
時刻は午後七時半になっただろうか。
通りにはまだ多くの往来があり、すれ違う人々がふたりに奇異な目を向けてくる。
中にはニヤニヤしたり、「あっ」と声を漏らして恥ずかしそうに視線を背けたりする婦人もいた。
それはなぜかといえば、大吉たちが、ただならぬ関係にあると想像したせいではあるまいか。
見捨てないでと懇願する大吉は、十七歳にしては幼く可愛らしい顔立ちで、青年はハッとするような美形の紳士である。
痴情のもつれかなにかで、捨てられた大吉が、追い縋っているように見えるのかもしれない。
おそらく青年の方は、そのことに気づいているのだろう。
至極迷惑そうにしかめられた顔からは、不愉快な気持ちを窺い知ることができる。
一方、大吉はなにも勘付くことはなく、「お願いします」と大声で頼み続けていた。
やがて青年は足を止めた。
拒絶されても大吉は、頼みの綱を切らすまいとして必死に追いかけた。
「待ってください。二、三日……いや、ひと晩だけでもいいですから!」
後ろについてくる下駄の音を振り切ろうとしてか、青年はさらに歩速を上げる。
足の長い彼なので、小柄な大吉は自然と駆け足になる。
庶民の住宅地を抜けてしばらく進むと、十字街に出た。
ここは路面電車のレールが敷かれ、鉄筋コンクリート製の百貨店や銀行、大商人の洋館風社屋に映画館など、大きな建物が目立つ大通りだ。
ガス灯はもう古く、この通り沿いに等間隔に立つ外灯は全て電灯である。
電灯の黄色い光や窓辺の明かりが夜道を照らしてくれるので、行き交う人の顔がはっきり見えるほど視界に不自由はない。
「僕を見捨てないでください。あなたしかいないんです。なんでも奉仕しますから、今夜は側に置いてください!」
青年に無視されようとも、大吉は諦めずに後ろから声をかけ続けた。
時刻は午後七時半になっただろうか。
通りにはまだ多くの往来があり、すれ違う人々がふたりに奇異な目を向けてくる。
中にはニヤニヤしたり、「あっ」と声を漏らして恥ずかしそうに視線を背けたりする婦人もいた。
それはなぜかといえば、大吉たちが、ただならぬ関係にあると想像したせいではあるまいか。
見捨てないでと懇願する大吉は、十七歳にしては幼く可愛らしい顔立ちで、青年はハッとするような美形の紳士である。
痴情のもつれかなにかで、捨てられた大吉が、追い縋っているように見えるのかもしれない。
おそらく青年の方は、そのことに気づいているのだろう。
至極迷惑そうにしかめられた顔からは、不愉快な気持ちを窺い知ることができる。
一方、大吉はなにも勘付くことはなく、「お願いします」と大声で頼み続けていた。
やがて青年は足を止めた。