「い、いえ、言わなくていいです。すみませんでした。二度と箒を振り回さないと誓います……」
「よろしい。今後は気をつけたまえ」
その言葉をもって許されたようだが、大吉はまだ正座を崩せずにいる。
一方、弥勒は切り替えが早いようで、足を投げ出して笑った。
「そやそや。大吉、気いつけや」
「なんで僕だけなんですか。弥勒さんもでしょう」
「わいは箒を振り回さへん」
「弥勒さんが僕を馬鹿にしたのが原因ですよ!」
膝立ちで文句を言っても、弥勒は「そやったかなー」とヘラヘラした態度で反省の色はない。
思わず大吉が怒り顔になったら、左門がパンと手を叩いた。
「お前達、それは喧嘩か?」
静かな怒りのこもる声で問いかけられると、ふたりは慌てて、どちらからともなく肩を組んだ。
「喧嘩ってなんのことでっか。この通り仲良しでっせ」
「そ、そうです。僕と弥勒さんは気の合う仲間です」
「ならば良い」と左門は怒り解いてくれて、大吉達は揃って安堵の息を吐いた。
(実家の父は怒るとすぐ手が出るけど、左門さんの暴力なしの威圧感の方が、ずっと恐ろしいな……)
その後、大吉は掃除の続きを指示され、左門は弥勒を連れて応接間から出て行った。
大吉が廊下の掃き掃除をしていると、半開きの客間のドアから、左門の叱責が響く。
「まだこれしか進んでいないのか。さては、寝ていたな?」
「へへっ、すんまへん。せやけど、昨夜は徹夜でっせ。少しくらい休んだって――」
「時間がないのだ。今月中にあと二十枚は描きたまえ」
「ギョヘー!」
おかしな叫びが聞こえ、大吉はほんの少し同情した。
展覧会用の作品を期日までに一枚仕上げればいいはずではと、弥勒が焦り声で訴えれば、左門が冷淡に答える。
「今は練習期間だ。これらの作品を展覧会には出させない」
「そ、そんな……」