怒り心頭で二撃目を繰り出した大吉だが、それも避けられてしまった。
廊下を走りだした弥勒が応接間に逃げ込み、大吉も追う。
広い空間に出れば箒を振り回す手に勢いがつき、長椅子や壁、絨毯を叩きながら夢中で追いかけた。
すると、箒の毛先が壁際の花台に掠った。
そこには、花の生けられていない、美しいガラスの花瓶が置かれている。
大吉の注意は花瓶に少しも向いていないが、弥勒は慌てた顔で足を止めた。
花瓶を守るように腕を広げて、花台の前に立つ。
「大吉、待ってや!」
「この期に及んで命乞いですか。僕はそんなに甘くないですよ」
「ちゃうねん。これはあかん――」
止める言葉を最後まで聞かずに、弥勒の頭目掛けて箒を振り下ろした。
反射的に弥勒が避けてしまえば、箒が花瓶に直撃し、台の上でグラグラと揺れる。
そこでやっと花瓶を意識した大吉は、強い焦りで目を見開き、弥勒も叫び声を上げて花瓶に手を伸ばした。
安定を崩した花瓶は、まるで時間の進行が遅くなったかのようにゆっくりと落ちていき、大吉と弥勒が床に滑り込むようにして両手を伸ばした。
ふたりの交差する手の上に花瓶は着地する。
なんとか割れずに済んで、ふたつの安堵の息が重なったその時、ドア口から低い声した。
「お前達はなにをやっているのだ」
再び肝を冷やした大吉が首を捻ってドア口を見れば、帽子を被ったままの左門がゆっくりと歩き寄る。
怒るのではなく、無表情なのが余計に怖い。
左門は、床に寝転んだままのふたりの手から花瓶を取り上げると、傷がないかを確かめて、慎重に台の上に戻した。
「ふたりとも、そこへ正座したまえ」
「はい……」
板間に正座をさせられた大吉と弥勒は、首をすくめて上目遣いに左門の顔色を窺っている。
おそらく怒っているのだと思われるが、左門は無表情で腕組みをし、ふたりの前をゆっくりと往復していた。
廊下を走りだした弥勒が応接間に逃げ込み、大吉も追う。
広い空間に出れば箒を振り回す手に勢いがつき、長椅子や壁、絨毯を叩きながら夢中で追いかけた。
すると、箒の毛先が壁際の花台に掠った。
そこには、花の生けられていない、美しいガラスの花瓶が置かれている。
大吉の注意は花瓶に少しも向いていないが、弥勒は慌てた顔で足を止めた。
花瓶を守るように腕を広げて、花台の前に立つ。
「大吉、待ってや!」
「この期に及んで命乞いですか。僕はそんなに甘くないですよ」
「ちゃうねん。これはあかん――」
止める言葉を最後まで聞かずに、弥勒の頭目掛けて箒を振り下ろした。
反射的に弥勒が避けてしまえば、箒が花瓶に直撃し、台の上でグラグラと揺れる。
そこでやっと花瓶を意識した大吉は、強い焦りで目を見開き、弥勒も叫び声を上げて花瓶に手を伸ばした。
安定を崩した花瓶は、まるで時間の進行が遅くなったかのようにゆっくりと落ちていき、大吉と弥勒が床に滑り込むようにして両手を伸ばした。
ふたりの交差する手の上に花瓶は着地する。
なんとか割れずに済んで、ふたつの安堵の息が重なったその時、ドア口から低い声した。
「お前達はなにをやっているのだ」
再び肝を冷やした大吉が首を捻ってドア口を見れば、帽子を被ったままの左門がゆっくりと歩き寄る。
怒るのではなく、無表情なのが余計に怖い。
左門は、床に寝転んだままのふたりの手から花瓶を取り上げると、傷がないかを確かめて、慎重に台の上に戻した。
「ふたりとも、そこへ正座したまえ」
「はい……」
板間に正座をさせられた大吉と弥勒は、首をすくめて上目遣いに左門の顔色を窺っている。
おそらく怒っているのだと思われるが、左門は無表情で腕組みをし、ふたりの前をゆっくりと往復していた。