(金さえあれば、画家として大成すると言いたいのか? そんなにすごい才能があるなら、どこかの金持ちが目をつけて、とっくに資金提供しているさ。適当なことばかり言う、インチキ男だな)
きっと左門も同じことを思ったはずだと、大吉は考える。
「帰りましょう」と促し、先立って歩きだした。
けれども左門は動かず、絵描きに驚くような申し出をする。
「弥勒とやら、家がないのなら私の屋敷に来るか? 絵の具やキャンバス、必要な画材は買い与えよう」
「さ、左門さん、なにを言うんですか!」
振り向いた大吉が、左門に近づこうとしたら、弥勒に横から体当たりを食らわされ、吹っ飛ばされた。
「わいの才能を見抜くとは、さすが社長はんですわ。人を見る目が確かなようで。ほな遠慮なくご厄介になりましょ。三食と小遣いも恵んでな。文無しなもんで遊びにも行かれへん」
図々しいことを言う弥勒を、今度は大吉が助走をつけて弾き飛ばす。
「左門さん、目を覚ましてください。この人、胡散臭さの塊ですよ。屋敷に住まわすなんて、血迷ったんですか?」
「僕ちゃんは子供やから、絵の価値がわからんでも仕方あらへん。けど、大人の話の邪魔をしちゃあかんなぁ。社長はん、わいはいずれ世界に羽ばたく有名画家になりまっせ。損はさせまへん。よろしゅう面倒みてやってください」
「左門さん、騙されては駄目です!」
大吉と弥勒は、押し合いながら口々に左門に訴える。
その醜い争いに眉間に皺を寄せた左門は、人差し指を立てて口を開いた。
「住まわせるに当たって、ひとつ条件がある。十二月二十日が締め切りの白馬会展に、出品する作品を描きたまえ。なんでも良いわけではない。私を唸らせるものでなければならない。出品さえできない駄作しか生み出さなければ、年内に出て行ってもらおう。良いな?」
年内ということは、あと三カ月もない。
その条件ならばと、大吉は反対するのをやめた。
きっと左門も同じことを思ったはずだと、大吉は考える。
「帰りましょう」と促し、先立って歩きだした。
けれども左門は動かず、絵描きに驚くような申し出をする。
「弥勒とやら、家がないのなら私の屋敷に来るか? 絵の具やキャンバス、必要な画材は買い与えよう」
「さ、左門さん、なにを言うんですか!」
振り向いた大吉が、左門に近づこうとしたら、弥勒に横から体当たりを食らわされ、吹っ飛ばされた。
「わいの才能を見抜くとは、さすが社長はんですわ。人を見る目が確かなようで。ほな遠慮なくご厄介になりましょ。三食と小遣いも恵んでな。文無しなもんで遊びにも行かれへん」
図々しいことを言う弥勒を、今度は大吉が助走をつけて弾き飛ばす。
「左門さん、目を覚ましてください。この人、胡散臭さの塊ですよ。屋敷に住まわすなんて、血迷ったんですか?」
「僕ちゃんは子供やから、絵の価値がわからんでも仕方あらへん。けど、大人の話の邪魔をしちゃあかんなぁ。社長はん、わいはいずれ世界に羽ばたく有名画家になりまっせ。損はさせまへん。よろしゅう面倒みてやってください」
「左門さん、騙されては駄目です!」
大吉と弥勒は、押し合いながら口々に左門に訴える。
その醜い争いに眉間に皺を寄せた左門は、人差し指を立てて口を開いた。
「住まわせるに当たって、ひとつ条件がある。十二月二十日が締め切りの白馬会展に、出品する作品を描きたまえ。なんでも良いわけではない。私を唸らせるものでなければならない。出品さえできない駄作しか生み出さなければ、年内に出て行ってもらおう。良いな?」
年内ということは、あと三カ月もない。
その条件ならばと、大吉は反対するのをやめた。