「僕はなんと不甲斐ない男なんだろう。文子さんは、僕みたいな頼りない男は嫌いなようだ……」
清は学生服のポケットから二つ折りにした茶封筒を取り出し、無言で大吉に渡した。
差出人には文子の名前が書かれ、刑務所の検閲の判が押されている。
これまで清は、毎日のように文子に手紙を送っていて、やっと返事が来たようだ。
「読んでいいのか?」と確認してから、大吉は二枚の便箋を引っ張り出し、黙読する。
幸治も隣に顔を寄せて、女性らしい柔らかな筆跡の文字を目で追っていた。
『拝啓、畑山清様。度重なるお手紙に困惑しております』
そのような書き出しの手紙には、結婚する気は少しもないので待たれても迷惑だという彼女の気持ちがはっきりと記されていた。
もし結婚するとしたら、左門のような頼りになる大人でないと嫌だとも綴られていて、清の想いを踏みにじるような印象であった。
自分を捕らえた相手だというのに、左門については好意的に書かれている。
欲にまみれて自分では泥棒をやめられなくなっていたので、捕まえてもらったことを、今では良かったと思っているそうだ。
なにより家族の面倒をみてもらえたことへの感謝が、一枚半に渡って書かれている。
(えっ、左門さんが、文子さんの家族を助けたって……?)
それは大吉も知らないことであった。
手紙によると、左門は、文子の弟妹達を東京の知人のもとへ送ったらしい。
文子は函館で有名になり過ぎた。
世間の冷たい視線を浴びながら、このまま家族が函館で暮らすのはつらかろうと、思い遣ってのことのようだ。
生活資金も五年間は援助する約束をし、上の弟は東京の師範学校に転校という手続きを取り、学費は無利子、無期限で貸してやったという。
清は学生服のポケットから二つ折りにした茶封筒を取り出し、無言で大吉に渡した。
差出人には文子の名前が書かれ、刑務所の検閲の判が押されている。
これまで清は、毎日のように文子に手紙を送っていて、やっと返事が来たようだ。
「読んでいいのか?」と確認してから、大吉は二枚の便箋を引っ張り出し、黙読する。
幸治も隣に顔を寄せて、女性らしい柔らかな筆跡の文字を目で追っていた。
『拝啓、畑山清様。度重なるお手紙に困惑しております』
そのような書き出しの手紙には、結婚する気は少しもないので待たれても迷惑だという彼女の気持ちがはっきりと記されていた。
もし結婚するとしたら、左門のような頼りになる大人でないと嫌だとも綴られていて、清の想いを踏みにじるような印象であった。
自分を捕らえた相手だというのに、左門については好意的に書かれている。
欲にまみれて自分では泥棒をやめられなくなっていたので、捕まえてもらったことを、今では良かったと思っているそうだ。
なにより家族の面倒をみてもらえたことへの感謝が、一枚半に渡って書かれている。
(えっ、左門さんが、文子さんの家族を助けたって……?)
それは大吉も知らないことであった。
手紙によると、左門は、文子の弟妹達を東京の知人のもとへ送ったらしい。
文子は函館で有名になり過ぎた。
世間の冷たい視線を浴びながら、このまま家族が函館で暮らすのはつらかろうと、思い遣ってのことのようだ。
生活資金も五年間は援助する約束をし、上の弟は東京の師範学校に転校という手続きを取り、学費は無利子、無期限で貸してやったという。