(文子さんが捕まってから、二カ月ほど。監獄は海風が吹きつけて市街地より寒いと聞いたけど、体を壊していないだろうか……)
ついに女怪盗が逮捕されたという記事が新聞に載ってからというもの、函館中が騒ついて、どこへ行ってもその話題で持ち切りであった。
左門のみならず、大吉のところにまで新聞記者が取材に訪れたけれど、『僕はなにも知りません』と答えて活躍を話さなかった。
女怪盗の正体を知る前は、見出しに自分の名が載り、英雄扱いされることを楽しみにしていたはずなのに、とてもじゃないがそんな浮かれた気分にはなれない。
その理由の大半は、清である。
逮捕の翌日から三日間、清は衝撃のあまりに学校を休んでしまった。
心配した大吉と幸治が迎えに行き、四日目からはなんとか登校できたけれど、文子への恋慕を断ち切れずに苦しんでいるのだ。
最近では刑期を終えて出てくるまで、文子を待っているとまで言いだし、大吉は心配している。
(清の奴、本気で十年も待とうとしているのかな。文子さんは有名になりすぎた。妻にすれば、清まで犯罪者扱いされて、将来が滅茶苦茶になるぞ……)
文子は九日前に裁判を終え、十年の懲役刑が言い渡された。
そこら辺のこそ泥とは、盗んだ金額が桁違いであることや、被害に遭った有力者達からの圧力もあって、前例よりかなり重い刑罰が課せられたのである。
文子の家族はいつの間にか長屋から姿を消し、入院していた母親も行方知れずなのだとか。
家族でさえ文子から距離を置いたというのに、清は想いを募らせるばかりで、親友としてはつらいところだ。
『文子さん』と清が口にするたびに、周囲に聞いている者がいないかと、ヒヤヒヤもさせられていた。
(十年あれば、忘れてくれるだろうか……)
ぼんやりと考え事をしていたら、「手が止まっているぞ」と指摘された。
ついに女怪盗が逮捕されたという記事が新聞に載ってからというもの、函館中が騒ついて、どこへ行ってもその話題で持ち切りであった。
左門のみならず、大吉のところにまで新聞記者が取材に訪れたけれど、『僕はなにも知りません』と答えて活躍を話さなかった。
女怪盗の正体を知る前は、見出しに自分の名が載り、英雄扱いされることを楽しみにしていたはずなのに、とてもじゃないがそんな浮かれた気分にはなれない。
その理由の大半は、清である。
逮捕の翌日から三日間、清は衝撃のあまりに学校を休んでしまった。
心配した大吉と幸治が迎えに行き、四日目からはなんとか登校できたけれど、文子への恋慕を断ち切れずに苦しんでいるのだ。
最近では刑期を終えて出てくるまで、文子を待っているとまで言いだし、大吉は心配している。
(清の奴、本気で十年も待とうとしているのかな。文子さんは有名になりすぎた。妻にすれば、清まで犯罪者扱いされて、将来が滅茶苦茶になるぞ……)
文子は九日前に裁判を終え、十年の懲役刑が言い渡された。
そこら辺のこそ泥とは、盗んだ金額が桁違いであることや、被害に遭った有力者達からの圧力もあって、前例よりかなり重い刑罰が課せられたのである。
文子の家族はいつの間にか長屋から姿を消し、入院していた母親も行方知れずなのだとか。
家族でさえ文子から距離を置いたというのに、清は想いを募らせるばかりで、親友としてはつらいところだ。
『文子さん』と清が口にするたびに、周囲に聞いている者がいないかと、ヒヤヒヤもさせられていた。
(十年あれば、忘れてくれるだろうか……)
ぼんやりと考え事をしていたら、「手が止まっているぞ」と指摘された。