弟妹達にもっと美味しいものを食べさせ、良い教育を受けさせてあげたいと、さらに金を求めるようになる。
それで目を付けたのが、カフェーにやってくる資産家の紳士達だ。
接客中にそれとなく女の好みを聞き出し、それにピタリと当てはまる女を演じて、被害男性に近づいた。
古今東西、男というものは、好いた女に弱い生き物である。
変装した文子にまんまと騙されて家に上げてしまい、金目のものをごっそり持っていかれたというわけだ。
男の趣味に合わせ、バスガールや看護婦などに化けてきた文子だが、衣装をどのようにして調達したのかといえば、自作していた。
縫製職人なので似たものを作るのは、造作もないことであった。
そこまで聞いた大吉は、「あっ」と声を上げた。
「左門さんが、女怪盗の正体に気づいたのって……」
清のランデブー計画を、大吉が左門に話したのは、三日前の水曜日だ。
その時の左門はまだ女怪盗の手掛かりを掴めず、悩みの中にいて、大吉の話は半分も聞いていない様子であった。
けれども〝仕立て屋″という言葉を耳にした途端、文子に興味を持ってあれこれと質問してきたのだ。
きっとあの時に、文子が女怪盗である可能性を感じたのだろう。
大吉の推測に、左門は頷いた。
「職業婦人の制服の入手先から足跡を辿れないかと調べていたのだが、個人に売った店は見つからなかった。なぜかと考えていた時に大吉から話を聞いて気づいたのだ。女怪盗は変装に使った衣装を買ったのではなく、自作したのだと」
ランデブー計画に協力するふりをした左門は、文子に会うと、すぐに牡丹であることも見抜いた。
それで確信は深くなる。
女給であれば資産家の男達との接点があり、相手の好みを知っていても不思議はない。
文子の境遇を聞けば動機も明白で、女怪盗に間違いないだろうと。
音羽館を一日貸切り、清と文子が活動写真を観に行けなくしたのも左門の策であった。