穂積は女の両腕に縄をかけ、口の端を吊り上げた左門は、石油ランプに点火した。
周囲が明るくなり、狐のような女の目元がはっきりと見える。口と鼻は、頭巾で覆われていた。
大吉は見覚えのない顔だが、「やはりお前か」と左門が低く笑った。
「大吉、懐を探って鍵を取り出したまえ」
「え、僕がやるんですか?」
「なんのために協力させたと思っている。大人である我々が、やるわけにいかないだろう」
飛んできた柔らかな体を受け止めただけではなく、こんな役目も言い渡されて、大吉は恥ずかしくなる。
「失礼します……」
緊張しながら着物の襟元に手を差し入れたら、胸の谷間にすぐに鍵は見つかった。
それを左門に渡した大吉の顔は真っ赤である。
(柔らかい真綿のような乳房だった……)
女怪盗はもう暴れてはいないが、隙を見て逃げ出す気はあるようで、目付きは鋭い。
怯む大吉に対し、左門はクッと笑い、遠慮なく女の頭巾を外した。
日本髪に卵形の顔、眉も瞳も吊り上がり気味で勝気な印象である。
歳は二十前後であろうか。
「誰なんですか?」と大吉が尋ねれば、穂積に笑われ、左門には呆れられた。
「大吉君は素直な良い子だな」
「こうも騙されやすくては褒められん。大吉、あれだけひとりの女給に夢中になっておきながら、その者が化粧を変えただけでわからなくなるのか?」
大吉は、目の玉が飛び出すほどに驚いた。
「ぼ、牡丹さんなんですか? でも……」
豊かな胸元や顔の形は同じだが、顔の印象は違う。
牡丹は愛嬌と色気を感じる吊り目であるが、女怪盗は話しかけるのを躊躇してしまうような、きつい感じの目元である。
それに加えて、牡丹の顔に特徴的な目尻のほくろがない。
大吉が半信半疑でいると、左門がランプの傘の内側をこすり、指先の煤を女の目尻にちょんと付けた。
「あ、本当だ。牡丹さんだ!」
どうやらほくろは、描いたものであったらしい。