堂々と正面玄関から出てきた女怪盗は、どうやら左門の屋敷への侵入も玄関からにしたようだ。
耳を澄ませば、砂利を踏む足音が遠くから聞こえてきたが、この場所では姿を確認できない。
ステッキを握りしめた左門が木陰から出て、身を屈めて歩き出したので、大吉も同じように続いた。
庭を突っ切り、屋敷の壁に背を当てた左門は、角から玄関がある方へと顔を覗かせる。
それとほぼ同時に、車のドアが勢い良く開けられた音がして、穂積の声が響く。
「女怪盗、捕らえたり!」
大吉の出番はなく、あっさり捕獲かと思われたが、どうやら腕を振りほどかれたらしい。
「そっちに行きました!」という穂積の焦り声が響いた。
「大吉、そこに立ちなさい」
左門に早口で指示された場所は、建物の角から五歩ほど離れた芝生の上である。
どんな作戦かはわからないが、大吉が言う通りにすると、女怪盗が走ってくるのが見えた。
黒い頭巾を被り、着物も草履も黒っぽい、“くノ一”のような格好である。
女は大吉に気づいても足を止めず、全速力で向かってくる。
(小柄な僕なら、かわせると思うのか? くそっ、絶対に捕まえてやる……)
大吉が両手を広げて腰を落としたら、角まできた女怪盗が「キャッ」と悲鳴を上げた。
左門が女の足にステッキを引っ掛けたのだ。
「うわっ!」
前に飛んだ女の体は、大吉を押し潰すようにして芝生に倒れる。
背中や後頭部を打ち付け、火花を見た大吉だが、痛みの他に心地良い柔らかさも感じていた。
(顔に当たるこの感触は、ち、乳房。これはかなり大きいぞ……)
すぐに追いついた穂積が女怪盗の両腕を後ろで捕らえて引っ張り起こしたため、豊かな胸が離れてしまった。
それを残念に思いつつ、打ち付けた後頭部をさすりながら身を起こす。
女怪盗はなんとか逃れようと、無言でもがいていた。
「諦めて大人しくするんだ」