円城寺士門の謎解きディナー〜浪漫亭へようこそ〜

これまでの手口を考えると、女怪盗はガラスを割るような荒っぽい侵入の仕方はしない。
ならば客に扮して浪漫亭内に入り込むはずだと、左門は考えたそうだ。
その推測は当たっていたらしく、営業時間中に怪しい女性のひとり客が、警戒していた穂積の前に現れた。
午後七時頃に来店し、オムレツライスを食べた女は、食事と支払いを終えると、女性従業員にお手洗いの場所を尋ねたそうだ。
その後はどこへ行ったのか、姿を確認できず。
だが、浪漫亭から外へ出ていないことは、穂積が確認している。
来店時に女怪盗だとわかっていたなら、その時に捕まえれば良かったのではないかと、大吉は疑問に思った。
それを問いかけると、窓の外を見つめる左門に、静かな声で言われる。
「我々は警察ではないから取り調べることはできない。言い逃れのできない証拠が必要なのだ」
さらに左門は、浪漫亭内に潜んでいる女怪盗が、金庫を開けることを予想した。
「大変じゃないですか。売上金を盗まれてしまいます。あ、鍵! 二階の美術品がある部屋の鍵も金庫の中でしたよね。盗られてしまいますよ。左門さんの屋敷の鍵もあるのに」
慌てる大吉に対し、左門は至って冷静だ。
「落ち着きたまえ」と諭し、暗がりの中でニヤリとする。
「金庫を開けられて構わない。それは私の策の内だ。金庫内の現金も、二階の美術品も、全て別の場所に移してある。めぼしい金目のものがないのなら、女怪盗は迷わず私の屋敷に入ろうとするだろう。予備の鍵を使ってな」
盗んだ鍵を手に、屋敷へ向かう途中の屋外で捕まえたいのだと、左門は話した。
それというのは、建物内で捕獲劇を繰り広げれば、壁や家具を壊され、汚される恐れがあるからだ。
潔癖な左門なので、できるだけ綺麗に捕まえたいらしい。
盗みの証拠品は鍵ひとつで充分。わざわざ価値ある美術品を危険にさらしたくはない、というのも理由であるようだ。