円城寺士門の謎解きディナー〜浪漫亭へようこそ〜

「そのまさかだ。私はそのような役目は御免だが、君なら喜んでできるだろう。正々堂々、若い女に抱きつけるのだからな」
女怪盗がめっぽう良い女だと噂されていることを思い出し、大吉は思わず頷いてしまった。
しかしながら相手が武器を所持しているかもしれず、危険はある。
小柄な大吉では取り逃がす可能性もあり、せっかくの機会を棒に振るかもしれない。
その心配を口にすれば、「穂積にも協力させる手筈だ」と安心するように言われた。
(男三人対、女ひとりならば、なんとかなるかな……)
了承の返事をして部屋を出た大吉は、口元を弓なりに吊り上げる。
勝手な計画に巻き込まれることを不満に思うより、左門に頼られたことが嬉しかった。
世間を騒がす女怪盗の顔を見られることには、若い好奇心が掻き立てられる。
『お手柄学生は濱崎大吉君』という新聞の見出しを想像し、今から自慢したい気分にもなっていた。

それから二時間ほどが経ち、大吉と左門は、じっと待つだけの時間を部屋の中で過ごしている。
左門は長い足を組んで椅子に腰かけ、三杯目の珈琲を口にしている。
大吉はあぐらをかいて窓の近くに座っていた。
午後十時を過ぎたところで、「電気を消しなさい」と左門に指示される。
部屋を暗くすれば、月明かりに照らされる左門の屋敷の庭と、浪漫亭の横と裏側が、先ほどより良く見えた。
女怪盗はまだ現れていない。
おそらくは従業員宿舎の窓辺の明かりが消え、皆が寝静まってから、動き出すのではないかと思われた。
捕獲作戦に参加している穂積は、屋敷の玄関が見える位置に停めてある、自動車の中に身を潜めているらしい。
「早く来い……」
気合十分の大吉が、屋敷の勝手口を睨んで言えば、「もう来ている」と左門に指摘された。
「えっ、どこですか!?」
「浪漫亭の中に潜んでいる」