「遅かったな。柘植は先に戻って風呂焚きをしているぞ」
「別に遅くないですよ。土日は大体このくらいまで洗い物が終わらないんです。というより、なんで僕の部屋にいるんですか。小樽は?」
一泊二日で、小樽に行ったはずではなかったのか。
目を丸くしている大吉に、左門はサラリと説明する。
「女怪盗を捕らえるためにここにいる。この部屋からは、浪漫亭の横と裏、私の屋敷の勝手口が見えるからな。今夜狙われるのは、そこだ」
「ええっ?」
つまり、小樽に女怪盗が潜伏しているという情報は、誤りであったようだ。
汽車に乗車中に知らせが入り、途中下車して戻ってきたといった状況であろうか。
(いや、左門さんのことだから、最初からわかっていたのに、教えてくれなかったということも考えられるな。うーん、それはないか。僕らや、文子さんに、嘘を教える理由がない。それにしても今夜、浪漫亭と左門さんの屋敷が狙われるとは、一大事だ!)
女怪盗が現れるという根拠を、大吉は知りたくなる。
質問しようと興奮気味に近づいたら、「汗臭い」と左門に顔を背けられた。
これには少々傷つくところだ。
「働いていたんですから、仕方ないでしょう」
「私は君と、この部屋で女怪盗が現れるのを待たねばならないのだ。今すぐ風呂に入ってきたまえ。それとテーブル代わりになる物を持ってきなさい。この机では低すぎる」
左門が珈琲碗を置いているのは、畳に座って使う文机なので、椅子と高さが合わないのは当然である。
和室に椅子を持ってくる方が間違っており、他人の部屋で随分と遠慮のないことを言うものだ。
ブツブツと文句を言いつつ、大吉が洗面器や石鹸、寝間着を用意していると、学生服に着替えろという注文もつけられた。
「潜むには、黒っぽい服の方が良い。大吉には活躍してもらわねばならない」
「まさか、僕が捕まえるんですか!?」
「別に遅くないですよ。土日は大体このくらいまで洗い物が終わらないんです。というより、なんで僕の部屋にいるんですか。小樽は?」
一泊二日で、小樽に行ったはずではなかったのか。
目を丸くしている大吉に、左門はサラリと説明する。
「女怪盗を捕らえるためにここにいる。この部屋からは、浪漫亭の横と裏、私の屋敷の勝手口が見えるからな。今夜狙われるのは、そこだ」
「ええっ?」
つまり、小樽に女怪盗が潜伏しているという情報は、誤りであったようだ。
汽車に乗車中に知らせが入り、途中下車して戻ってきたといった状況であろうか。
(いや、左門さんのことだから、最初からわかっていたのに、教えてくれなかったということも考えられるな。うーん、それはないか。僕らや、文子さんに、嘘を教える理由がない。それにしても今夜、浪漫亭と左門さんの屋敷が狙われるとは、一大事だ!)
女怪盗が現れるという根拠を、大吉は知りたくなる。
質問しようと興奮気味に近づいたら、「汗臭い」と左門に顔を背けられた。
これには少々傷つくところだ。
「働いていたんですから、仕方ないでしょう」
「私は君と、この部屋で女怪盗が現れるのを待たねばならないのだ。今すぐ風呂に入ってきたまえ。それとテーブル代わりになる物を持ってきなさい。この机では低すぎる」
左門が珈琲碗を置いているのは、畳に座って使う文机なので、椅子と高さが合わないのは当然である。
和室に椅子を持ってくる方が間違っており、他人の部屋で随分と遠慮のないことを言うものだ。
ブツブツと文句を言いつつ、大吉が洗面器や石鹸、寝間着を用意していると、学生服に着替えろという注文もつけられた。
「潜むには、黒っぽい服の方が良い。大吉には活躍してもらわねばならない」
「まさか、僕が捕まえるんですか!?」
