「文子さんは、清のためを思って諦めてと言ったように聞こえたぞ。まだ可能性はある。卒業まで一年半以上もあるんだ。何度でも告白すればいいだろう」
幸治も、清の背中を叩いて応援する。
「頬が赤かったから、清のことは嫌いではないはずだ。お前が立派になって充分な稼ぎがあるところを見せれば、文子さんは気持ちを変えてくれるかもしれない」
「そうだよ清、諦めるな。誰とも結婚しないということは、他の男に奪われる心配がないということ。それを確認できただけで、今日のランデブーは成功だ」
大吉達の前向きな意見を聞いて、俯いていた清が顔を上げた。
「ふたりの言う通りだ。今は勉強に励み、少しでも良い給料がもらえる会社に就職することを考えよう。初給料を持って、文子さんに求婚するんだ」
(清の決意は素晴らしいな。僕も負けずに頑張ろう。いつか左門さんに、君の力が必要だと言わせてみせるぞ)
清に触発され、やる気をみなぎらせた大吉は、壁際の補助テーブルから新しいグラスを取ってきて水を注ぎ、ふたりに渡した。
自分もグラスを手に持ち、高く掲げる。
「僕達三人の将来が輝くことを祈願して、乾杯しよう」
グラスをぶつけた少年達の顔は、晴れやかだ。
夢と希望溢れる十七歳の彼らは、自分の努力で未来はどうにでもなるのだと信じていた。
翌日の土曜日、厨房で目一杯働いた大吉は、午後八時過ぎに仕事を終えて従業員宿舎に戻ってきた。
口をもぐもぐと動かしているのは、余った茹で卵をもらって食べているからだ。
玄関から近い和室が、大吉の部屋である。
裸足で廊下を進み、自分の部屋の襖を開けたら、大吉は口の中の卵を吹き出しそうになってしまった。
消したはずの電気が点いており、文机の横に食堂の椅子を置いて、濃紺の背広姿の左門が座っている。
珈琲碗を机に置いた左門は、足を組み替え、淡々と言う。
幸治も、清の背中を叩いて応援する。
「頬が赤かったから、清のことは嫌いではないはずだ。お前が立派になって充分な稼ぎがあるところを見せれば、文子さんは気持ちを変えてくれるかもしれない」
「そうだよ清、諦めるな。誰とも結婚しないということは、他の男に奪われる心配がないということ。それを確認できただけで、今日のランデブーは成功だ」
大吉達の前向きな意見を聞いて、俯いていた清が顔を上げた。
「ふたりの言う通りだ。今は勉強に励み、少しでも良い給料がもらえる会社に就職することを考えよう。初給料を持って、文子さんに求婚するんだ」
(清の決意は素晴らしいな。僕も負けずに頑張ろう。いつか左門さんに、君の力が必要だと言わせてみせるぞ)
清に触発され、やる気をみなぎらせた大吉は、壁際の補助テーブルから新しいグラスを取ってきて水を注ぎ、ふたりに渡した。
自分もグラスを手に持ち、高く掲げる。
「僕達三人の将来が輝くことを祈願して、乾杯しよう」
グラスをぶつけた少年達の顔は、晴れやかだ。
夢と希望溢れる十七歳の彼らは、自分の努力で未来はどうにでもなるのだと信じていた。
翌日の土曜日、厨房で目一杯働いた大吉は、午後八時過ぎに仕事を終えて従業員宿舎に戻ってきた。
口をもぐもぐと動かしているのは、余った茹で卵をもらって食べているからだ。
玄関から近い和室が、大吉の部屋である。
裸足で廊下を進み、自分の部屋の襖を開けたら、大吉は口の中の卵を吹き出しそうになってしまった。
消したはずの電気が点いており、文机の横に食堂の椅子を置いて、濃紺の背広姿の左門が座っている。
珈琲碗を机に置いた左門は、足を組み替え、淡々と言う。
